<大相撲春場所>◇3日目◇13日◇大阪府立体育会館

 関脇安美錦(33=伊勢ケ浜)が大関琴奨菊(28)を肩透かしで下し、3連勝を飾った。10場所ぶりに関脇に返り咲いた本場所で、連日の業師ぶりを発揮。33歳にして最盛期を実感し始めた。

 すべて計算の範囲内だった。左四つから、安美錦が右を巻き替えつつ、肩透かし。「立ち合いで踏み込めたから、巻き替えても慌てなかった。下から入れば、たいがい押されないから」。身長で6センチ低い琴奨菊よりも低く、強く当たれたからこそ、自分の流れが生まれた。

 ベテランと呼ばれる年になったが、進化を実感する。新十両だった12年前、110キロ程度だった体重は、先場所に155キロ。33歳で自己最重量を記録した。半年前から酒を断った。四つ相撲ではないが、右四つよりも左四つの方が力が出ると、最近気付いた。

 「思うように体が動くようになったのは、ここ2、3場所」と話す。今場所前、テレビでハンマー投げの室伏広治のドキュメンタリー番組を見た翌朝には、陸上選手の練習を試した。新たなトレーニング器具も、自ら取り寄せる。貪欲な姿勢は、初土俵から15年たった今も変わらない。

 NHK中継によると、最近1年で物言いがついた回数は、幕内最多の6回。「ここ1年じゃなく、ずっと多いよ。しぶとく、あきらめないからね」と安美錦。際どい勝負が多く、裁きを嫌がる行司には、付け人が「迷ったら、こっちに軍配を上げておいてください」と冗談交じりにお願いする。相撲が面白いから、初日に続いてこの日も、ファンによるアンケートで1位を記録した。

 大関を撃破し、中継のインタビュー室に呼ばれた。「久しぶりだからね。いいもんだね、また行きたくなる」。過去、大関昇進時の最年長記録は、琴光喜の31歳3カ月。上がりたい気持ちは、今も変わらないのか?

 「昔より、あるよ。やることやれば、勝てるようになってきてるから」。把瑠都の綱とりが話題の場所で、いぶし銀が光り始めた。【佐々木一郎】