<大相撲秋場所>◇14日目◇22日◇東京・両国国技館

 大関日馬富士(28=伊勢ケ浜)が、横綱昇進を確実にした。大関鶴竜(27)を寄り切り、無傷の14連勝。2場所連続の全勝優勝に王手をかけた。仮に千秋楽の横綱白鵬戦に敗れても、優勝決定戦に進むことが確定。26日の九州場所番付編成会議と理事会を経て、第70代横綱が誕生する。

 綱への勢いは、止まらない。日馬富士は左で張った。もろ差しになった。鶴竜を一気に寄った。土俵を走った。14連勝で、優勝と横綱昇進に手を掛けた。結びの一番は、土俵下の控えで見た。「自分の相撲だけ集中して、特に何も考えなかった」。白鵬が勝って、賜杯の行方は千秋楽に持ち越されたが、「横綱内定」を勝ち取った。

 7月の名古屋場所は全勝V。今場所も王手をかけ、千秋楽で本割と優勝決定戦で敗れても優勝同点になる。評価は高く、鏡山審判部長(元関脇多賀竜)は千秋楽の取組前に北の湖理事長(元横綱)へ昇進を諮る26日の理事会招集を要請する。理事長が24日の横綱審議委員会で横綱昇進問題を諮問する流れができた。

 モンゴルから来日したのは、00年9月16日。120人以上が集まった選考会で、伊勢ケ浜親方(元横綱旭富士)に見いだされた。当時は「相撲部屋に、いじめはないんですか?」と心配した。故郷が懐かしくなった時は、持参した写真に顔を近づけ、母のにおいを思い出す少年だった。

 あれから12年。4年で入幕し、8年ちょっとで大関になった。伊勢ケ浜親方は「教えたことをすぐにやろうとして、すぐできるようになる。だから、どんどん教えていける」と振り返る。兄弟子の安美錦は「本番以上に気合を入れて、集中して稽古する。これは、難しいこと」と強さの裏付けを口にした。

 やればできる-。日馬富士は身をもって、証明したかった。3人兄弟の末っ子。長兄は生まれつき、両耳が聞こえず、子どものころから手話を身に付けた。5年前には、ウランバートルに財団「ABAAZAN」を設立。今は障害者8人が、エコバッグやエプロンを作っている。

 「僕が、みんなの給料を払ってます。仕事があれば、友達もできる。結婚して、子どもができたカップルもいるんです」。病院慰問やボランティアにも積極的。「今があるのは、自分の努力とみんなのおかげ。自分だけで、今の地位に来たと思ったことはないから」。昇進は、かかわったすべての人への恩返しだ。

 幕内で2番目に軽い133キロの体は、激しい相撲で常に悲鳴を上げている。今場所中も初日から毎晩、部屋近くの治療院で1時間、両足首などのケアを受けてきた。痛みに耐えて、たどり着いた千秋楽。「1日1番の積み重ねで、今日につながっているわけで、明日1番、力を全部しぼり出して、ベストを尽くします」。こわもてで誤解されがちな優しき大関は、ついに横綱へ駆け上がる。【佐々木一郎】

 ◆横綱昇進メモ

 栃若以降では、朝潮、玉の海、2代目若乃花、三重ノ海が、直近2場所に1度も優勝なしで昇進した。徐々に厳しくなったが、双羽黒(元北尾)も直前準優勝、それまで優勝経験なしで昇進。その後も8場所優勝できずトラブルで廃業。これをきっかけに厳しさを増し、旭富士以降の7人は全員が連続優勝している。日馬富士はまだ連続Vではないが、2場所合計は29勝となった。7人のうち、これを上回るのは連続全勝優勝した貴ノ花だけ。