<大相撲秋場所>◇13日目◇27日◇東京・両国国技館
またしても、期待はため息に変わった。大関稀勢の里(27=鳴戸)は関脇豪栄道(27)に押し出されて、3敗目を喫した。これで再び自力優勝の目は消滅。悲願の初優勝の可能性は大きく遠のいた。横綱白鵬(28)は大関鶴竜(28)を下して1敗をキープ。2敗はいなくなり、両者が直接対決する今日14日目に白鵬が勝てば、4場所連続27度目の優勝が決まる。
何度目だろうか。稀勢の里に向けられた期待が、ため息へと変わるのは。館内の空気が、一気に沈んだ。その痛みは、本人が一番分かっていた。「アーッ!!
クソッ!!」。風呂場に入る直前に叫び、中では「アーーーッ!!」と2度、絶叫した。顔は怒りで真っ赤。最後まで一言も発しなかった。帰り際、白鵬の相撲を画面で見つめる目は充血していた。みけんには、深いしわを刻んだままだった。
前日に日馬富士を倒し、にわかに優勝争いが面白くなったばかりだった。さぁ、白鵬との直接対決だ…という矢先。豪栄道のいなしで体勢を崩されると、左を差されて上体が起きた。もう何もできない。あっさりと押し出されて終わった。
期待が高まった分、裏切られた思いはそれ以上に募った。審判部長の鏡山親方(元関脇多賀竜)の言葉は痛烈だった。「終わったな。1日だけ夢見て、何とかなるんだと思ったのに、こんなに早く期待が裏切られるとは…。つまんねえな。1人で盛り上げて、1人で落としてんだもん。個人的には(今後も優勝は)もうないと思う。よっぽど変わらないと」。
優勝を争う白鵬ですら、同じだった。前日まで1差で追う稀勢の里との直接対決を「楽しみ」と話し、気合を込めていた姿は、もうなかった。「どうこうはない」。興味をなくしたかのようにそっけなかった。
「稀勢の里の綱とり」について一番の理解者と言ってもいい北の湖理事長(元横綱)は、こう突き放した。「(日馬富士に)せっかく勝ったのに、またイメージが薄くなる。(残り2日間を)勝ったとしても準ずるとは…。11勝と12勝は違うが、12勝と13勝でも違う。その1つをいつも落としていて、軽く見られる」。
いつもの姿だった。変わることはできなかった。そんな稀勢の里に、せめてできること。それは名古屋場所に続いて白鵬を連破し、千秋楽まで優勝争いへの興味を持たすこと。もうそれしかない。【今村健人】<稀勢の里のがっかり>
▽11年秋場所
当時関脇で入幕後初の初日から8連勝で白鵬と並走も、9日目の把瑠都戦から3連敗でV争いから脱落。
▽12年夏場所
11勝3敗で栃煌山、旭天鵬と並ぶ優勝争いのトップで千秋楽を迎えたが、把瑠都に上手投げで敗退。
▽13年夏場所
初日から13連勝で14日目に白鵬と全勝対決。善戦したものの最後はすくい投げで敗れた。千秋楽は、勝って結びの白鵬に重圧をかけたかったが、琴奨菊に完敗。結局13勝2敗に終わった。
▽13年名古屋場所
7日目までに3敗も盛り返し、2横綱を連破して迎えた千秋楽。勝てば綱とりを翌場所へつなげることができたが、またも琴奨菊に敗退。質問には無言を貫いた。