<大相撲秋場所>◇7日目◇20日◇東京・両国国技館

 西前頭5枚目の勢(27=伊勢ノ海)が「モンゴルの怪物」を止めた。新入幕で6連勝中だった東前頭10枚目の逸ノ城(21=湊)を、鼻血を出しながら59秒9に及ぶ相撲の末、上手投げで下した。

 まだ幕内前半の一番。なのに、座布団が飛んだ。それだけの興奮状態に、館内が包まれた。満員札止め1万610人が、身を乗り出して手をたたく。さながら横綱が敗れたかのよう。勢いに乗る「モンゴルの怪物」を誰が止めるのか-。答えは、勢だった。

 土俵上、日に日に知名度を増す逸ノ城への声援が大きかった。それが火を付けた。「先輩として、まだ負けてたまるかというのはありますから」。立ち合いで右肩が当たり、左の鼻から血が出た。右四つの形で「待った」がかかるが、願ったのは「呼吸が苦しくなるから、鼻に詰めないで」。

 幸い、血を拭かれただけで済み、口と鼻で目いっぱい酸素を吸い込んだ。「我慢だ」と、持久戦に耐える準備ができた。相手の上手投げは、足を踏み出してこらえた。最後は投げ合いに打ち勝ち「会場がウワーッとなった。歓声が気持ちよかった」と身震いした。

 NHKから急きょ「館内が盛り上がったので特別に」とインタビュー室に呼ばれた。通常は勝ち越しや上位撃破の時。「えっ、なんで?」と苦笑いだが、観客が選ぶ「敢闘精神評価」は史上初めて200を超えた。師匠だった先代伊勢ノ海親方(元関脇藤ノ川)が発案した企画。弟子が、見る者の心を震わせた。

 考えすぎて寝られないため、翌日の相手は当日まで見ない。だが、前日は支度部屋のテレビで知ってしまった。足取り重く帰るも疲れから、気づくと普段の午前0時に就寝。「ぐっすりでした」。三役経験者も食われた怪物を退治し、軽やかに帰った。【今村健人】