交流戦優勝が目前に迫ったヤクルトの好調の要因は中村だ。5月に復帰してからチームに落ち着きが出始めた。初回の守備で、周東、牧原大と直球を狙われ、3球で無死一、三塁のピンチ。試合前の分析に基づいて組み立てたのだろうが、すぐに察知して入り球を変化球に切り替えた。1失点したが、判断力と決断力を感じさせた。

昨年ぐらいから「私ならこう配球する」という場面で中村の配球がシンクロすることが増えてきた。もちろん、私の考えが必ずしも正解だとは言わない。それでも理由付けは必ずあり、中村も同じ考えを持つようになってきたと感じる。

1点リードの6回2死二、三塁。三森をフォークとカットボールの2球で追い込んだ。特に2球目のカットボールは内角ギリギリで打者は手が出なかった。ここでどうするか-。念を押して内角をボール球で突き、勝負球のフォークを落とす。そう考えがちだ。

しかし、打者心理からすれば2球であっという間に追い込まれた。素晴らしい2球目もあり、打者には考える余裕がない。ボール球を挟めば、相手に考える時間を与えてしまう。畳み掛けて、フォークで勝負するべきだと思った。中村も同じ考えで3球勝負で空振り三振を奪った。

ソフトバンクもリーグ首位で、言うまでもなく甲斐が正捕手だ。だが最近は裏をかこうとする配球が目立つ。7回、先頭宮本に対し、4球目の直球でカウント2-2と整えた。千賀の武器、フォークで勝負に行けばいい。だが内角直球を要求し、ややシュート回転してファウル。結局、粘られて四球で歩かせた。失点にはつながらなかったが、流れがさらに重くなった。

1点ビハインドとはいえ、下位打者。裏をかく必要はなかった。甲斐の考えは理解はできる。正捕手の座が長くなると、自分のリードがパターン化してくるように思えてしまう。私自身も裏をかこうとしがちな時期があった。だがこれは場面によって、正攻法で行く、裏をかく、と使い分けることによって解決できる。

中村も甲斐も正捕手としての地位を築きながらも、内山壮、渡辺と刺激を与える若手捕手も出てきている。切磋琢磨(せっさたくま)して技術を磨くことで、正捕手として長生きできる。(日刊スポーツ評論家)