試合前まで9戦10発だったヤクルト村上の、ホームランを放った打席のチャートを見返した。初球打ち5本を含む8本までが、3球目以内に仕留めたもの。140キロ台中盤のそこまで速くない速球を3本、得意とする変化球を7本、スタンドに運んでいる。しかもすべてストライクゾーン。前後の打席で伏線を張った配球もあったかもしれない。だが本塁打の打席を見る限り、絶好調の村上に早いカウントからゾーン内に投げていたら、それでは打たれてしまう。

この日の広島バッテリーは「村上封じ」のお手本を示した。強打者が手が付けられない状態の時、どう攻めるか。内角を高低に投げて、上体を起こしたり、足をずらすことで体の軸を動かす。これを繰り返し、念には念を、時にはさらに念を押し、意識付けする。四球も覚悟の上で、ボール球を投げ続け、好調が故に村上がじれて振ってくるのを待つのも手だ。すべてを駆使するしかない。

初回の1打席目。逆球はあったが、捕手会沢の要求は5球連続で内角だった。普通の状態ならカウント1-2から、内角で1球念を押したら、勝負球を投げるが、さらに内角高めを重ねた。そこまで意識づけした上でのカーブで空振り三振。2打席目も初球の外角スライダーは危険な球だったが、そこから4球連続で内角に投じたからこそ、最後は逆球で内に入ってしまったチェンジアップで見逃し三振を奪えた。

150キロ前後の直球を持つアンダーソンだからこそ、捕手の会沢も直球で押せた。6回1死満塁ではアンダーソンも制球が乱れていたが、外角に抜けても、内角への意識が強くなった村上の腰が開き気味で捉えさせなかった。

9回は栗林が初球にストライクからボールになるカーブを投じた。投手は早いカウントではストライクを欲しがり、ゾーンに入る変化球を投げたがるが、今の村上には空振りを奪うつもりで変化球を投げなければ危険だ。結果ボールになったが、意図は感じられ、4、5球目は空振りを奪いにいったフォークで4打席連続三振を決めた。

今、ヤクルトは思い通りの野球を展開している。だが他球団も手をこまねいているわけにはいかない。まずは村上を止めにかかり、打線を分断する。そうすれば流れが少しずつ変わる。(日刊スポーツ評論家)

広島対ヤクルト 6回表ヤクルト1死満塁、村上は三振(撮影・加藤孝規)
広島対ヤクルト 6回表ヤクルト1死満塁、村上は三振(撮影・加藤孝規)