昨年の巨人は甲子園で3勝10敗と歯が立たなかった。今年、阿部監督は甲子園でどんなベンチワークをするのか注目していた。こういう時は勝ち試合よりも、負け試合にこそ、素の顔が出るものだ。いくつか、印象的なシーンがあった。

3回2死一、二塁。森下のセンターへの飛球を佐々木が捕れずタイムリー二塁打とされた場面。ベンチの阿部監督は表情を変えず、じっと座っていた。こういう時、うつむいたり、顔をしかめたり、首をひねったり、そのちょっとしたしぐさを選手は見ている。

うちの監督はどうするのか? それが長いペナントでは選手には見過ごせない情報になる。あからさまであれば、無意識のうちにベンチと試合をするようになる。首脳陣の顔色をうかがい消極的になるのだ。

4回無死満塁。8番吉川は内野ゴロで1死満塁。ベンチはそのまま赤星を打席に送った。2点負けており、最低でも1点は返したい。代打も考えられたが、好投赤星の続投を決断した。

ここでもあたふたせず、先を見据えた、シーズンを通してのマネジメントに映った。赤星がしっかりローテーションを守り、戦力となるように考えた末の続投に感じる。

6回1死二塁。この回から登板した2番手の左腕横川は、打撃好調な森下を打席に迎えていた。追加点で試合は決まる局面で、ベンチを含めて注目していた。阿部監督がブロックサインを送っていた。

この状況で内野フォーメーションの指示は考えにくい。そこで球種のサインでは? と感じた。すると大城卓がベンチを凝視していたところから察すると、阿部監督のブロックサインは球種だった可能性がある。

ここまで、大城卓を軸に小林、そして岸田と捕手3人を使い分けてきた。複数捕手の併用は勇気がいる。基本的には配球は捕手に任せるが、ピンチでは阿部監督が直接球種のサインを出しているのなら、これも新しいやり方と感じる。

まだシーズン序盤のこの時期、試合の正念場ではベンチが責任を負うという意味でサイン出せば、捕手を育てることにもなり、思い切ったプレーを促す側面もある。

この試合を見る限り、新人監督とは思えないどっしりとした風格すら感じられた。優勝予想をしている身として、阿部監督が負け試合で示した落ち着きは、常勝巨人の正捕手らしい振る舞いに映った。(日刊スポーツ評論家)

阪神対巨人 7回裏阪神1死、前川の代打ノイジーのところで「申告敬遠…」と場内アナウンス。場内がざわついたが即座に訂正が入り阿部監督はジャスチャーを交え周囲に説明(撮影・加藤哉)
阪神対巨人 7回裏阪神1死、前川の代打ノイジーのところで「申告敬遠…」と場内アナウンス。場内がざわついたが即座に訂正が入り阿部監督はジャスチャーを交え周囲に説明(撮影・加藤哉)