ミスターの持つ力を目の当たりにした。18年2月の巨人宮崎春季キャンプ視察。精力的に見回る中で2軍の練習にも足を伸ばした。選手は外野でウオーミングアップ中で、グラウンド内にはサービスでファンも招き入れられていた。長嶋茂雄終身名誉監督(82)は一塁ベンチから外野へと歩を進めた。

2軍施設のため警備員もほとんどいない。ファンも国民的英雄の存在に気づき、色めき立つ。それでも長嶋同監督は気にするそぶりもなく、群衆に近づく。そしてファンのいるエリアに差しかかると「モーゼが海を割った奇跡」のように、人々は自然と左右に分かれて導線が生まれた。「長嶋さ~ん」「ミスター~」と声掛けするも、もみくちゃになるような混乱には至らなかった。

7月に胆石が見つかり、長期入院し、6月8日の西武戦以来、試合観戦は遠ざかった。球界の太陽ともいえるヒーローを公の場で見られないのは、寂しさが募る。山口オーナーは「弱っているところは見せたくない気持ちが強いはずだから、まずはトレーニングからと思っているのでは。長嶋さんのことだから頑張って、みなさんの前に姿を現すのでは」と言う。80歳を超えて、なお「復活」の期待を寄せられるのは、ミスターしかいないだろう。【巨人担当 広重竜太郎】