44球中の9球目に、エネルギーを浴びた。こんな体験ができるとは思わなかった。18日、捕手のやや右後ろで、ロッテのドラフト1位、佐々木朗希投手(18=大船渡)のブルペン投球を見るチャンスに恵まれた。捕手の後ろ側でプロのピッチングを見ることができる機会は、決して多くない。

18・44メートルの先に佐々木朗がいる。沖縄セルラー那覇の三塁側ブルペンは、2人が投げることができるサイズだった。心なしか照明が暗い気がした。天井はそれほど高くなく、3メートルほどだろう。190センチのルーキーがやけに大きく見える。やや暗い感じがするその先で、左足を高く上げてモーションに入る。次の瞬間、うなりを上げてボールが向かってくる。

それは、ミットの音という衝撃以上の波動をもたらした。そういう錯覚が生まれるほどの破壊力を感じた。中腰の捕手の胸元への1球。何かをやってみよう、何かを変えてみよう、できなかったことに挑戦してみよう、そういう気持ちにさせるエネルギーが発散されている。御利益がありそうな、そんなボールだった。

空気を切り裂く「シューウウウ」というか、「ヒューウウウ」という音は、ミットに近づくにつれて強くなる。音源が近くなるから当然のことだが、巨大なエネルギーが宿った球が周囲に発散するパワーを、聴覚で察知した気がした。

「バーン」というか「ビシン」というミット音で、佐々木朗のストレートのエネルギーは放散されるが、その余韻はまだ空気を漂って回りに散らばり、存在感を失わない。

ブルペンの奥で、18歳はぎらついた目で輝いて見えた。これはまだ成長過程の投手なのだろう。しかし、まるで今が絶頂かのようだ。原石が最大限のまぶしい光を放っているようだ。今しかない、今しか見えない恒星が、18・44メートル先に見えた。

そして、10球目のモーションに入る。再び左足を高く上げた瞬間、もうただ見入るしかないと感じる。圧倒的な熱量が、投げる前から体からゆらめくようだ。若い、細いと言われるが、今この瞬間の佐々木朗は、間違いなく必見のピッチャーだ。この球を受けたブルペン捕手は、何か大切なものを受け取ったのではないか。若返ったとか、パワーが増したとか…。そんな愚問をしたくなった。

野球少年、野球少女はもとより、何かに行き詰まっている人や、何かに燃えている人が、この場所で、このボールを見たら、きっといろんな感情が湧き上がるだろう。陳腐な言葉で言うなら、それは、いわゆる感動を生む、勇気を湧き上がらせるスポーツのポテンシャルだろう。

ちょっと、こちらの感覚がどうにかしてくるようだ。気が付いたら、その日の深夜に、デスクに言われたわけでもないのにパソコンに向かってこの原稿を書いていた。佐々木朗のパワーが書かせてくれたのか? それならそれで楽しい。【井上真】

ロッテ佐々木朗希
ロッテ佐々木朗希