神様、仏様…、鉄腕と呼ばれた男も病には勝てなかった。元西鉄ライオンズの大エースだった稲尾和久氏(享年70)がこの世を去ったのは13年前の11月13日だった。闘病2週間ほどで秋晴れの空に昇っていった。命日のこの日、親族がお参りに訪れたのだろう。ホークスの本拠地であるペイペイドーム近くのお寺に最愛の律子夫人とともに眠る稲尾氏の墓石にはユリ、菊など色鮮やかな花が手向けられていた。灰になった線香のかおりがまだ、墓地に漂っていた。

晩秋は悲しい別れの季節となった。いや、新たな旅立ちの季節なのかもしれない。稲尾氏と同郷である大分出身の後輩が新たな1歩を踏み出した。今季限りでホークスを退団した内川だ。1日のウエスタン・リーグ最終戦で10年間袖を通したホークスのユニホームに別れを告げた。現役続行を希望し、新たな仕事場を求め、本格的なトレーニングを開始した。ロッテとのクライマックスシリーズ(CS)決戦を翌日に控えたこの日、内川は福岡市内の練習施設で約2時間、びっしょりと汗を流した。アップ、キャッチボール、そしてバットを手にしティー打撃を行うと、マシンに向かって快音を響かせた。「打撃フォームで手のトップの位置を小さくしていたほうが、動きやすいと思って今年はやってきたけど、いらない動きをするので、深めに位置を戻しています」。例年ならこの時期はほとんど握らないバットだが、今は違う。3種類のバットを取り換えながら、新フォームを模索していた。

短期決戦では無類の勝負強さを発揮した。17年楽天とのCSファイナルステージで放った4戦連発のアーチ、昨年のCS第1ステージでも楽天戦で2本塁打を放つなど「短期決戦の鬼」とも呼ばれた。目指す舞台は変わったが、希代のヒットマンの闘志はまだまだ衰えることはない。【ソフトバンク担当 佐竹英治】