沖縄には似合わない厚着をして、那覇空港から帰阪便に乗り込んだ。1カ月にわたった阪神1軍キャンプが1日、打ち上げられた。機内で選手の総括コメントを整理していた時、木浪聖也の言葉が目に留まった。

「キャンプだけでうまくなるっていうのは絶対にないと思うので…」

宜野座からチームバスに乗り込む直前、この1カ月間での守備力向上について尋ねた際の返答だ。基礎練習への取り組みを一過性で終わらせない-。力強い意思表示に映った。

昨季まで3年連続12球団ワースト失策の虎は今キャンプ、川相昌弘氏に臨時コーチを頼んだ。宿敵巨人で遊撃手、指導者として長年活躍した名手の招請。話題性もあり、その一挙手一投足が注目された。

キャンプインと同時に任務をスタートさせ、早出練習から夕方の特守まで内野守備陣に基礎を伝授。指導最終日となった2月22日、川相氏はナインの意識改革に納得した上で、あらためて基本練習、継続の大切さを何度も説き続けた。

「建物で言えば基礎、木で言えば根っこがしっかりしないと土台、枝葉は簡単に揺らいで崩れます」

「あとは日々の練習を積み重ねていくしかない」

「人生、いいことばかりではない。悪いことが起きた時、そのままにしないでプラスに変えていくことが大事じゃないですか」

「実戦では当然、成功ばかりじゃなく失敗も起こる。失敗をただの失敗にしないように、また練習を上積みしていくことが大事」

まずは基礎作りから地道に行こう。言葉の端々から思いがにじみ出ていた。

今春、沖縄でのチーム失策数は紅白戦3試合を含めた10試合で計13。内野手は10失策だった。ちなみに昨春の沖縄チーム失策数は紅白戦1試合を含めた10試合で計14。内野手は10失策だ。単純比較すれば20年と21年の守備力はほぼ横ばいとなるが、時に実態は数字だけでは計れないものだ。

キャンプ最終日、木浪は内野陣の決意も代弁してくれていた。

「教えてもらった基礎練習は、シーズンに入ってもみんなやっていくと思う。そういうことができれば、全員の守備力が向上するんじゃないかと思います」

守備力アップに魔法や特効薬なんてない。1年をかけて現状を打破していく。「川相イズム」は確実にナインに浸透している。

今回、阪神1軍キャンプ野手メンバー21人の平均年齢は26・5歳。若いチームには伸びしろがある。虎はもともとキャンプ、シーズン問わず守備練習に時間を割いてきたチーム。さらに名手からもらったヒントの数々を各選手が泥臭く体に染みこませていくのだから、きっと未来は明るい。

沖縄最後の2試合はともに無失策。だからといって、地に足をつけた選手たちが簡単に満足することはない。矢野燿大監督も「ただ単にエラーを減らすのは違う。攻めて減らさないと。そこに価値がある」と目先の数字にとらわれない。

「ローマは一日にして成らず」を少し拝借させてもらえば「守備王国は一日にして成らず」といったところか。どうしても早急に成果を期待してしまいしがちな自分を戒めて、大阪に戻った。【佐井陽介】

サブグラウンドでの特守を終え、記念撮影を行う阪神川相臨時コーチ(前列左から2人目)(2021年2月22日撮影)
サブグラウンドでの特守を終え、記念撮影を行う阪神川相臨時コーチ(前列左から2人目)(2021年2月22日撮影)