バットをボールに持ち替えて、NPB復帰を目指す元プロがいる。

昨年まで巨人に在籍した村上海斗“外野手”(25)が、独立リーグの堺シュライクスで最速152キロ右腕になっていた。今月3日のオープン戦で自己最速を更新。同9日の公式戦・神戸三田ブレイバーズ戦でも、9回のリリーフ登板で150キロをマークした。「自分の中では、160キロを目標にしています」と村上。3年間在籍した巨人では50メートル5秒8の俊足を武器に1軍を目指した選手が、速球派に生まれ変わった。

北照(北海道)では投手メインの二刀流。春夏3度の甲子園出場を経て、奈良学園大には投手として入学した。だが右肩の状態が思わしくなく、2年から外野手に転向。3年夏の全日本大学選手権では宮本丈(ヤクルト)と打線を引っ張り、大学初の4強入りに貢献した。準々決勝・関西国際大戦で本塁打も打つ活躍を見せ、一気にプロに知られる存在に。翌17年にドラフト7位で巨人入りした。

だが巨人では、結果を出せなかった。肩の強さ、足の速さは1軍レベルと言われ、大型外野手への成長を期待されながら、打撃で「タイミングの取り方」に苦労。18、19年のイースタン・リーグの年間打率はともに1割台。3軍が主になった20年は両打ちにも挑戦したが、1軍出場経験のないまま同年オフに戦力外となった。

ただ村上には、プロで使わなかった“武器”があった。大学4年間で右肩は完治。巨人時代の19年秋、外野手がブルペンで行った送球練習で147キロをマーク。周囲を驚かせた。「野手から投手の体に作り替えてもう1度プロを目指そうと、気持ちを切り替えました」。戦力外のオフは、再出発への始点になった。

元オリックスの大西宏明監督(40)、元DeNAの藤江均投手コーチ(35)らのいる堺シュライクスに入団。寮で生活し、施設内のトレーニング機器で体を鍛え、10キロ近く体重を増やして189センチ、100キロの投手仕様の体に変身。「増量したせいで、もう5秒台では走れなくなってしまいましたけど」と苦笑するが、4月の実戦で結果が出始めた。

スライダー、カーブ、スプリット、ツーシームを操るが、軸はむろん真っすぐ。現役時の藤川球児氏が披露した「打者が、次に来る球はまっすぐとわかっていても、打てない」速球が理想だ。チームは守護神としての働きを期待する。

村上の堺入団が発表されたとき、巨人の関係者が「村上のこと、頼むな」と大西監督に連絡してきたという。それだけ、なんとか育てたかった好素材だったのだろう。

今オフ、2度目の12球団トライアウトに挑戦する。野手で参加した昨オフは無安打に終わり、オファーは届かなかった。今オフは投手で挑戦する。まだ25歳。されど本人は「もう25歳。若くはないんです。1年1年が勝負です」という。プロに入っていなければ知り得なかった「1年が勝負」の危機感も、投手としての成長を促す力になっている。【堀まどか】