「元侍」の意地を見た-。ヤクルト内川聖一内野手(38)が、9日広島戦(神宮)の9回1死満塁、フランスアから代打サヨナラ打を放った。ソフトバンクから今季新加入し、初の本拠地お立ち台では「もうほんとに、ここに立つなんて想像もしてなかったので。気持ちいいですね」と語るなど、感慨深げな表情も印象的だった。

土壇場で勝負を決めたベテランは、お立ち台を降りた後の取材でも充実感あふれる表情。「今日ここで打たなかったら出番ないなと思っていた(笑い)」と振りかえった。

両リーグでの首位打者獲得、11年のMVP、09年第2回WBCでは世界一に貢献するなど実績十分の好打者も、新天地では代打のスペシャリストとしての起用が続く。メンタル、技術両面において「これといったものが自分の中で出来上がっているわけではない。レギュラーと比べると、1打席の1球で勝負が決まってしまいますし。今まで4打席で使っていた集中力を1打席で使うくらいの気持ちでやっています」という。「スタメンの頃に比べると絶対的に運動量は落ちますんで、やれる範囲のことはやりたい。1日1打席の中で後悔はしたくないと思っていたので」と練習で走る量を増やし“勝負”の場に備えていることも明かした。チームでは同じく代打を務める川端慎吾、宮本丈が好調で「慎吾とか丈のバッティングって普通じゃないんで(笑い)。簡単に打ってるように見えますけど、尊敬しかない」と後輩を称賛し学ぶ姿勢もみせる。

最後に代打のスペシャリストの役割について問われると「いや、楽しくないっすよ(笑い)。やりがいはちょっとわからないですけどドキドキはします。出来れば楽なところで行きたいのは正直なところです。これ言っていいのかな(笑い)」と表情を崩したが、すぐに真顔で言葉を続けた。「でも今日みたいに、いいところで、みんな喜んでくれることもありますんで。ほんと打てて良かったと思います」。

どうしても「ソフトバンクの内川」のイメージが強かったが、この一打で「ヤクルトの内川」を大きく内外に印象づけたことだろう。代打に控える頼もしい「元侍」。まだまだ山田哲人、村上宗隆ら現役侍に負けない存在感を示してくれそうだ。【遊軍=鈴木正章】