「人的補償」という制度には、記者という第三者の立場から見ても、なんとも心が揺さぶられるものがある。このオフは中日から獲得した又吉と入れ替わる形で、ソフトバンクから岩崎翔投手(32)が中日へ移った。

又吉獲得の発表後、チーム内ではプロテクトや人的補償を巡って、若手選手などからも不安の声があったと聞く。その中で、当事者となった岩崎の姿は本当に格好良かった。

移籍が決まった昨年12月末、岩崎は球団事務所で編成首脳らから説明を受けた後、その足で報道陣に対応。文書のコメントなどで済ませることもできたはずだが、気持ちの整理が付かない難しい状況でも、自らの言葉で話すことを選んだ。「プロテクト枠から外れていることは覚悟していた。中日さんから選んでいただけたのはうれしいこと。前向きに頑張りたい」。表情からは複雑な心境もうかがえた。それでも、言葉は力強く、前向きだった。

年が明けて、最後の荷物整理にペイペイドームを訪れた際には「移籍が決まってから、街や飲食店で『中日でも頑張ってください』とたくさん声をかけていただいた。本当にありがたい。ここで頑張ってきて良かった」と話していた。

福岡のファンの気持ちがよくわかる。右肘手術後のリハビリ中も、試合で打たれた後も、嫌な態度を見た記憶は1度もない。今回も、野球選手として人として、人生の大きな局面で堂々とした姿だった。「応援したい」と思わせるものが、岩崎にはある。新天地で輝いて欲しい。心からそう思う。【ソフトバンク担当=山本大地】

中日の球団旗の前でポーズを決める岩崎翔(2022年1月6日撮影)
中日の球団旗の前でポーズを決める岩崎翔(2022年1月6日撮影)