普通では、なかなかお会いできない方々に直接会える仕事をさせてもらっているので、この際、一時代を築いてきた方の雰囲気や印象の共通点とはなんだろう…と、勝手に考察してみた。

今季から日本ハム担当になり先日、初めて新庄剛志監督(51)に直接、質問する機会を得られた。

7、8日にZOZOマリンで行われたロッテ戦の際、“監督囲み取材”に初参戦。沖縄・名護キャンプでは、キックボードでさっそうとグラウンドに来る際「おはようございまーす!」と声をかける程度だったが、ようやく、間近で対面できた。

8日のロッテ戦では、清宮選手がオープン戦3号を放った。3発いずれも右翼へのものだったので、札幌ドームより右翼が狭くなる新球場では、本塁打が必然的に増えるのでは、と聞いてみた。

「いやいや、どこにホームラン入れるとか考えなくて。センターに打ちにいって内に入ってきたものは右中間、外だったら左中間、ホームランというより左中間にツーベースを打つ意識でいけば、自然と甘く入ってきたものが今度はセンターに入り出してくると思うから。でも、そこまでまだホームランバッターじゃないですよ。中距離ヒッターですよ。ホームランバッターを目指すと、全てがちょっと崩れてくるタイプかなと。左中間右中間にツーベースを打つ意識の入り方でいけば自然にホームランが増えていくバッターじゃないかな。僕の考えはそうです。他の人の考えはちょっとわからない。本人の考えはもっと分からない。それ聞いといて。OK?」

初見の記者の質問に、ここまで丁寧にこたえてくれるとは正直、想像していなかった。しかも、しっかりこちらを見ながら。目がきらきらしている。

スターといえば、11年前に担当した、あるアスリートを思い出した。

コンサドーレ札幌の担当をしていたころ、10~12年まで3シーズン、元日本代表FWで、今季からJ3沼津監督を務める“ゴン中山”こと中山雅史氏(55)が、チームに在籍していた。

W杯日本人初ゴール、J1得点王2度、現役当時Jリーグ最多の157得点を挙げるなど、日本サッカー界のレジェンドだ。

コンサドーレ札幌がJ1昇格をかけた最終戦を間近にした16年11月、S級ライセンス取得のために、札幌の練習場に研修でいらっしゃった際に、お会いしたのが最後だったか。

世界の大舞台で活躍された方を3年取材し、練習態度や、ちょっとした会話から学ぶことが、たくさんあった。

その中で、人柄を感じる、やりとりがあった。

10年の年末から11年の春先にかけ、ゴン中山さんは北海道生活で初めての冬を迎えた。11年1月、クラブハウス内でトレーニング。練習に入ってから雪が強くなり、約2時間で駐車場に置いていた車に約20センチほど降り積もった。雪見だいふくのように真っ白く包まれ、車体がほぼ見えないような状態になっていた。

「ゴンさん、これじゃ車出せないんじゃないですか。雪下ろし手伝いましょうか」と聞くと、後ろのハッチバックから、慣れた手つきで雪下ろしブラシを取り出し、雪を払い出した。そして、こんな話をしてくれた。

「雪下ろし用のブラシはトランクに入れておいた方がいいよね。助手席や後部座席に入れるとドアを開けたときに小雪がシートに入ってしまうからね。先に上の雪を払ってからドアを開けないと。雪道の混雑や雪かきの時間も逆算しないと、練習時間にも間に合わなくなっちゃうよね」

車の雪下ろしの面倒臭さは、北海道育ちの方なら当然、知っていること。だが、中山選手は静岡出身。大学は茨城の筑波大、卒業後も静岡のヤマハ、磐田と、雪国生活には無縁だったにもかかわらず、早々と雪国生活の知恵をつけ、実践していることに驚いた。困ったらクラブスタッフを呼んでやってもらうのではなく、こういうことも、ちゃんと自分でやるんだな、と。

加えて、たかだか雪下ろしの話でも、寒い中、丁寧に話してくれる姿に、身近な感覚を覚えた。

新庄監督とゴン中山選手。競技も経験してきた舞台も異なるのだが、あくまで個人的な感想なのだが、話す際の顔の向きや、目線への気配り、快活かつ、丁寧な言葉でしゃべるところが、さすがスターだなあ、と感じだ。当然、有名人だという尊大な態度は一切なく、むしろ、いろいろなことに気がつき、その分、周囲に細かく気を使っているような雰囲気を、感じた。

加えて、会話のところどころで、くすっと小笑い(当然、大笑いのときもあります)させる箇所や、へえ~と思わせる、学びの要素を盛り込んでくれるところも、似ている。

異なるのは、新庄監督は野村監督から「宇宙人」と呼ばれていたこともあり、考え方や普段のファッションも含め、すご~く遠いところからやって来た印象。中山選手は、初対面の際は緊張したが、長く取材を続けると、考え方やファッションなどに関しては我々“庶民”に近く、距離の近さを感じた。「宇宙人」新庄監督と「地球人」ゴン中山さんというところか。

そんなことを考えながら、もう1人、あるレジェンドとの対面を思い出した。10年に、格闘技界のカリスマで、昨年、旅立たれたアントニオ猪木さんを取材した。当時、コンサドーレ札幌監督だった石崎信弘監督(65=現J3八戸監督)との対談があり、その際に、チームや石崎監督へのエールなどを引き出したく、質問した。

猪木さんは、至ってマイペースだった。コンサドーレ札幌の話には一切触れず、いきなり「サッカーもね、バッジョがね…」と元イタリア代表のレジェンドの名を挙げ、語り出した。記者の不勉強もあって、分からないことばかりだったが、何だか世界規模の大きな話をされているのだなとは、把握している。(その後、もう1度、コンサドーレ札幌の話を振った際に「やっぱりね、頑張ってほしいよね」と応えてくれました)

新球場元年。プロ野球界の新時代が幕を開ける。14日にはエスコンフィールドで、こけら落としとなるオープン戦が行われ、15日には右手を骨折していた江越選手のサヨナラ打で“初勝利”を挙げた。

WBCでは、日本ハムOBのダルビッシュ投手、大谷投手、ソフトバンクにFA移籍した近藤選手が奮闘。果たして、これからのチームを引っ張るのは誰か。奇想天外なプレーでファンを喜ばせる「宇宙人」新庄監督タイプか、ひたむきに結果を積みかねる「鉄人」ゴン中山さんタイプか、はたまた血みどろになっても戦い続ける「闘魂」猪木さんタイプか。勝負どころで一段と輝きを増し、それでいて温かみがあって愛される“エスコンヒーロー”の誕生を、心待ちにしている。【日本ハム担当=永野高輔】