4月7日は少し動けば汗ばむような陽気だった。阪神2軍の鳴尾浜球場は、人生の門出がよく似合う春の匂いに包まれていた。

4度の手術から復活を目指す高橋遥人投手(28)が、約2年5カ月ぶりに打者と向き合った。練習とはいえ、カウントもつけて、マウンドから打者と対戦する真剣勝負。他の選手やスタッフも手を止めて、高橋の姿に視線を注いだ。

打撃ケージの周りにはコーチやスタッフが集まり、調整練習で鳴尾浜に来ていた同学年の大竹耕太郎投手(28)も真後ろから見つめた。苦しいリハビリ過程を知る人、支えてきた人たちにとっても特別な時間だった。投げたくてウズウズしていた胸中は、そこにいた全員が理解していた。

ベテラントレーナーの杉本一弘さん(58)もその1人。外野で他の選手のトレーニングを見ながら、高橋の投球と、球場表示を1球ごとに確認していた。「いい光景でした。久しぶりだなあ、と。満を持してですよね。やっと、ここまで来たんだなと思いながら見せてもらいました」

最速147キロをマークするなど、今すぐにでも試合に復帰できそうなパフォーマンスだった。大竹は「えぐいです」と感想を話した。しかし、投げ終えた直後、高橋は周囲に納得いかない様子を見せていたという。その顔を見た関係者たちも「いや、よかったやん」「ナイスピッチ」と笑顔で返していた。

春にふさわしい「いい光景」だった。本人も言っていたが、ここからもう一息。焦らずに満開の時まで歩んでいってほしい。【阪神担当 柏原誠】