気温0度を下回る極寒の夜。手がかじかんで強振しづらいはずなのに、マイナーリーガーの飛球は次々と外野後方を襲っていた。ニューヨークから車で2時間30分。ヤンキース傘下3Aスクラントンの加藤豪将内野手(24)は4月中旬、暖房が効いた本拠地クラブハウスで「メジャー球は硬くて飛ぶ。うれしいです」とはにかんだ。

今年3Aで施された改革は、日本ではまだあまり知られていないかもしれない。加藤は「3Aでは去年までマイナー球だったんですけど、今年からメジャー球を使っているんです」と教えてくれた。メジャー公式球はローリングス社のコスタリカ工場で製造されている。一方、マイナー使用球は中国製で縫い目が大きく材質も若干異なるという。4月18日付のベースボール・アメリカ電子版は「3Aの本塁打が前年比1・35倍に増加した」と伝えている。

加藤は昨季2Aトレントンで118試合に出場し、5本塁打。3Aに初昇格した今季は、出場21試合目で早くも7号を放った。メジャー40人枠に入っていないにも関わらず、一時はメジャー初昇格の予感が漂った。長打力アップは昨年、ヤンキースGM付特別アドバイザーの松井秀喜氏から指導を受けてフォーム改良した成果に違いない。だが、それだけではないと、謙虚な好青年は力説していた。「ボールが変わったのが一番大きい。マイナー球とメジャー球の違いはすごい」と。

2Aトレントンの本拠地アーム&ハンマーパークは両翼約100・6メートル、中堅約124・1メートル。一方のヤンキースタジアムは左翼約96・9メートル、中堅約124・4メートル、右翼約95・7メートル。両翼の広さに4メートルほど差がある。加藤は昨年2Aで5本塁打にとどまったが、球団のデータベースで分析すれば、ヤンキースタジアムが舞台であれば18・7本塁打を打てた計算になるという。

「去年はよくウォーニングトラック(外野フェンスに沿って引かれた線からフェンスまでの領域)で捕られていた。新しいボールになって、そういう飛球がフェンスオーバーするようになった気がする」そうだ。

今回の3Aボール変更は、大リーグ機構が選手の実力を見極めやすくするために、メジャーと同じ球の使用を要望して実現した。昨今の米国野球界はメジャー実績がある中堅クラスとの契約よりも、若手有望株「プロスペクト」の発掘、育成を重視する傾向が強まっている。メジャーで通用する逸材を決して見落とすな-。近年のトレンドが如実に現れた改革、と言ってもいいのかもしれない。(つづく)【佐井陽介】

◆佐井陽介(さい・ようすけ)兵庫県生まれ。06年入社。07年から計11年間阪神担当。13年3月はWBC担当、14年は広島担当。メジャー取材は、08年春のドジャース黒田以来11年ぶり。