稲葉監督の懐刀が着々と刀を研いでいる。侍ジャパンの建山義紀投手コーチ(43)は指揮官の日本ハム時代の僚友で、メジャー経験もあり国際感覚を備える。視察行脚に同行しながら、オンオフ関係なく情報収集に努めている。

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団らんの家族旅行も五輪金メダルへの下準備となる。建山投手コーチは「この間、家族が韓国に行った時に、現地のスポーツ紙を買ってきてもらった。どんなことが書いてあるんだろうと思ってね。1面が報復死球についてだったけど」と笑いながら明かした。

まだ五輪出場権は得ていないが、韓国は84年ロス五輪以来となる悲願の金メダル獲得へ最大ライバルとなる可能性がある。過去4年の韓国リーグの選手名鑑をそろえた。「最近は日本の読者向けのものもある。見ながら、少しずつ覚えてね」と受験勉強のように長期計画で学んでいる。

6月20日、阪神-楽天戦を視察のため甲子園を訪れた侍ジャパン稲葉監督(中央)。左が建山コーチ、右は井端コーチ
6月20日、阪神-楽天戦を視察のため甲子園を訪れた侍ジャパン稲葉監督(中央)。左が建山コーチ、右は井端コーチ

稲葉監督と同様に、国内のリーグを定期的に視察している。冷静な視点をグラウンドに投げかけている。目を向けるのは長所ばかりではない。「広島の畝投手コーチには『どういう時に大瀬良は状態が悪くなる傾向がありますか?』と聞いたり」。別チームの代表候補について「『右打者が続くと崩れる時がある』と所属先のコーチに教えてもらった。ネガティブな情報を知っておくことも大事。代表の試合では、いい状況ばかりではないので」。日本の台所を託される中、あらゆることを想定している。

11月のプレミア12では、主要国際大会では初めて時間制限の新ルールが導入される。投球間隔が20秒、マウンドでの話し合いは30秒、投手交代とイニング交代は90秒以内に制限される。稲葉監督が指揮した昨年10月のU23ワールドカップ(W杯)でも投球間隔20秒のルールは採用され、球場にも表示が出ていたという。「U23W杯の時はあまり問題はなかったし、意識させすぎるのも、というのもある。今は(候補選手たちの)平均的なタイムを見ていこうと思っている」と捉えている。

イニング交代の時間短縮は、投手が十分な投球練習を行えるかカギとなる。プロ野球のようにベンチ前でのキャッチボールはできない。建山コーチにはメジャー時代の経験がある。「新人投手だと早めに審判に投球練習を打ち切られやすい。自分の場合はすぐにマウンドに行って2球ぐらいテンポを速めて投げて、そこから普通に戻して投げていた。(90秒なら)感覚的には8球ぐらい投げられると思う」とシミュレーションしている。

選手選考や先発・中継ぎ・抑えの役割分担、投手交代がメインの任務となる。金メダル獲得を左右する決断のための要素を集めている。(この項おわり)【広重竜太郎】