今夏、大船渡・佐々木朗希投手が、岩手県大会で連投による故障を防ぐために登板回避したことが大きな話題となった。少子化や価値観の多様化に伴い、野球人口が減少している中で「子どもたちをいかにケガから守るか」が過去にないほどフォーカスされている。

誰もが聞いたことがあるだろう。「動作解析」という言葉も、比例して注目が高まっている。動きの1つ1つを、主に力学の観点から解析することで、正しい動きを探り、ケガを防ぐ。筑波大硬式野球部の監督で、同大准教授の川村卓氏(49)に、動作解析の視点から最善のパフォーマンスを生む方法を聞いた。まずは「ケガをしない投げ方」を探っていく。

 
 

小学校低学年から、ケガをしない投げ方を身につけるための重要な要素の1つに「ボールの握り方」がある。ボールは握らなければ投げられない。原点だが、見落としがちな盲点だ。

川村氏 子どもたちにとっては大きな野球のボールをつかませると、わしづかみに近い状態で強く握ります(イラスト(1))。それを投げようとすると、肘が下がった状態で、ボールを握った手が上のまま投げてしまいます。これは、本来の投げ方とは違います。肘にも大きなストレスがかかってしまいます。

“わしづかみ”の弊害を掘り下げる。

川村氏 ボールの握り方が悪いと、支点が違うので、余計に腕を振らなければなりません。強く投げようとすればするほど、です。また、ボールも抜けやすくなってしまいます。ただ、この握り方は手が大きくなると自然に直っていきます。それと同時に肘も上がってくるはずです。

導き方に難しいことはない。大切なのは観察による気付き。

川村氏 一番いいコーチングは、「自然に投げさせる」こと。ただ、高校、大学になっても肘が低い、ボールがいかない、変な回転をする、という選手は大抵、ボールの握り方が間違っている。そこを注意して見てあげるといいでしょう。そして肘を上げて投げる練習方法を提示してあげましょう。

正しい握り方を、あらためて確認しておく。

川村氏 本来、野球でボールを投げるときは、人さし指と中指が上にきて、親指と小指が下にきた状態で握ります(イラスト(2))。この握り方だと手首が自由に動き、肘が上がってきやすいのです。この握り方ができるかできないかが、ケガをするかどうかに大きく関わってきます。

肘が上がったところで、次に注意したいのはキレイな「しなり」でボールを投げる動作だ。この動きにも、負担のかからない投げ方があるという。

川村氏 腕が体から早く離れる。よく「アーム」といわれる投げ方ですね。最初から体から手が離れた状態で投げると、肘から手首まで力がかかる距離が大きくなり、肘を痛める要因になります。一番いいのは、腕は最終的に伸びるんですが、なるべく腕をたたんだ状態にして最後に伸びると、負担は小さいのです。

「アーム」の投げ方では、肩の関節が外旋する(腕がしなる)ことにより、肘が後ろに引っ張られ障害のリスクが高まるという。

川村氏 実は、僕らが見ていると佐々木朗希投手もまだアームっぽい投げ方なんです。できれば、もっと体の近くから投げて欲しい。まだ改善の余地があるということ。それでも、あれだけの球が投げられる。末恐ろしいですよね。

正しいボールの握り方と正しい投げ方。小さいころから1つずつ身に付けることによって、ケガは十分に防げる。「令和の怪物」もまた、ケガのない体を得るために進化の途中なのだ。(つづく)【保坂淑子】

◆川村卓(かわむら・たかし)1970年(昭45)5月13日、北海道江別市生まれ。札幌開成の主将、外野手として88年夏の甲子園出場。筑波大でも主将として活躍した。卒業後、浜頓別高校の教員および野球部監督を経て、00年10月、筑波大硬式野球部監督に就任。現在、筑波大体育系准教授も務める。専門はスポーツ科学で、野球専門の研究者として屈指の存在。