「打撃」について、筑波大硬式野球部監督で同大准教授の川村卓氏(49)に科学の視点から聞く。第5回は理想のスイング軌道を作るための腕、手の使い方。
◇ ◇ ◇
左右の腕、手は役割も使い方も大きく違う。
川村氏 右打者でいえば、左手は体幹のひねりから回転していったときにパワーを伝達する働きをします。では右手は? 私の研究によると、何もしていないことが分かりました。打撃においては「邪魔をしない」ことが大切です。そのためには、右手をできるだけ体に近づけて(肘をたたむ)バットを入れていく。そうすることで、左手へ力を伝達しやすくなります。右手に力が入ると、先にバットが出てしまいドアスイングの原因になります。特に振りはじめは、右手は何もしないことが大事です。
右打ち、左打ちでの違いはあるのだろうか。
川村氏 「右投げ右打ち」の選手の方が、この部分が下手な人が多いです。力を入れるべき左手(引き手)が利き腕でなく、邪魔をしない右手が利き腕になるからです。逆に「右投げ左打ち」の選手は、力を入れるべき右手が利き腕になるので、力を伝えやすい。右投げ左打ちの選手が多い要因があります。
しかし、レベルが上がってくると別の問題が生じるという。
川村氏 前回も話しましたが、打撃は最後にグリップを「起こす」作業が必要になります。下がっているバットを起こすことによってヘッドが走ってくる。引き手は、この起こす動作が必要です。
以前、ある右投げ左打ちのプロ野球選手に「右手が邪魔なんです」と相談されたことがありました。本来は左手でやらなければならない起こす動作を、利き腕の右手でやってしまうことが多い。ヘッドが返ってしまい引っかけてのセカンドゴロが多くなり、逆方向への打球を苦手とする傾向が出てきます。逆に右投げ右打ちの選手は、起こす動作が利き腕になるため上手なんです。
木のバットにうまく対応できない理由は、この点にもあるという。
川村氏 金属バットは、極端に表現すれば、当たればポンとはじいてヒットになります。木のバットになるとヘッドを起こす動作ができるかできないかで差が出る。高校生まで「すごくいい打者」といわれていた右投げ左打ちの打者が、木のバットになった途端に打てなくなるのは、この差によるものです。
どんな練習をしたらいいのだろうか。
川村氏 右打ちの選手には、左手でのスイングをしっかりさせて体の力を伝達することを教えます。右手は邪魔しないように肘をしっかりたたむ。左打ちの選手は、バットを起こしながら逆方向に打つ練習をしたらいいでしょう。私がよくやっていたのは、テニスラケットで片手のバックハンドを打たせる練習。感覚を身に付けさせます。キレイな軌道が出てきて、逆方向にもいい打球が出てくるでしょう。
理想とする軌道の選手は誰だろう。
川村氏 右打者では、ソフトバンク内川聖一選手の打ち方は参考になります。物理的には、一番加速されているときに、当たるのが一番いい。簡単に言えば左足のちょっと前くらいで捉えるのが理想で、私たちは1カ所で打つ練習をするのですが、内川選手は泳いでもヒットを打つし、手前でも捉えられる(図)。
内角を打つときの右肘のたたみ方、左手の抜き方が素晴らしい。グリップを出すことで操作性が増す。それができるかどうかで、前後の幅を作りますが、前後左右のポイントの幅が広い。いい手本になるでしょう。
次回はタイミングの取り方について深掘りする。(つづく)【保坂淑子】