「打撃」について、筑波大硬式野球部の監督で同大准教授の川村卓氏(49)に科学の視点から聞く。第6回はタイミングの取り方について。感覚に頼る部分が大きいイメージがある動作を、丁寧に探っていく。

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川村氏 私たちは、レギュラーと非レギュラーの選手の打撃動作を比べ、何が違うかを調べました。その結果、スイングスピードや打球スピードは基本的に変わらず、タイミングの取り方や方法に差が出ているようでした。レギュラーであるほど、ステップから着地の時間が長いのです。しっかりと時間を取れる選手の方が、いろいろな球に対応できる。

「間」を作るための、体の使い方は。

川村氏 打撃は、投手に対して横に「進動作」です。横に進むときに、お尻にある中臀(でん)筋(骨盤の外側、上部の筋肉)がうまく使えることが1つの条件。もう1つは、それに伴い、軸足の内転筋を「粘らせながら動く」ように使わなくてはいけません。腕相撲で負ける時は、グーッと力を発揮しているけど、逆の方向に腕が倒されますよね。これは「エキセントリックな使い方」と言って、筋肉が伸ばされているのに我慢する力。打撃も同じように、内転筋をエキセントリックに使うことで、粘りながら動けるようになるわけです。

いいタイミングを取るためには、バットの位置もポイントになる。

川村氏 打撃で一番難しいところをひと言で表現するなら、静から動に切り替わる「振りだしのきっかけ」です。バットが思ったところに出てくる位置にあり、思ったところに出てくる使い方をしなければ、出てきません。それをどうやって作るか。バットの「重心」をあまり動かさないように振りだすことが、力学から見た理想的な振りだしです。

バットの重心は動かさない
バットの重心は動かさない

重心は、芯とはまた違う場所にあるという。

川村氏 重心とは、重さが集約されている中心。グリップから出そうとして、重心を動かしながら打とうとすると、重さを感じてバットが出ない原因になります。重心を動かさなければ、バットは動いてもグリップはすぐに出せる。スムーズにインサイドアウトができます。タイミングというのは「ここだ」という時に、パッとバットが出るかどうか。重心をうまく操作すれば、その動きがしやすくなるわけです。

振りだす時の「脱力」がキーワードになる。

川村氏 金属から木のバットを扱えるようになる、最大の感覚も脱力です。振りだすきっかけのところで柔らかく持ち、スッと出す。プロでも、構えで力が入っているように見えて、打ちだすときは力が抜けて重心をあまり動かさない選手が多い。見習ってほしい打ち方は、すべてにおいてバランスが取れて無理がない、無駄がないというところに行き着くのです。(つづく)【保坂淑子】