茨城県の独自大会4回戦が行われた8月1日。多賀に5-6と敗れた水戸一の監督竹内達郎(46)は試合後ナインを集め、自ら監督を辞し、秋からコーチの木村優介(35)に託す旨を伝えた。

「この夏で就任10年でした。コロナで思う活動ができなかった分はあったけど、『10年』を機に、新チーム発足のタイミングで後任に引き継ごうと決めていた」。竹内は、そう言った。

伝統校ながら、甲子園常連校とはいえない水戸一にあって、竹内の存在は以前から気になっていた。水戸一と彼は「水と油」の関係にあったからだ。

個人面談を記載した「カミノレアル」
個人面談を記載した「カミノレアル」

「一球入魂」。精神重視の野球を推進した飛田穂洲(すいしゅう)ゆかりの水戸一で、出身の常総学院時代、当時の監督木内幸男(89)から学んだ「放任野球」は並立できるのか?

竹内は言う。「不器用な者でも、練習で出し尽くしてやることで伸びる。その目的に向かって、穂洲は猛特訓を説き、木内さんは個性の生かし方を用いた」。2011年(平23)の就任以来、竹内は両方を融合させた「ハイブリッド野球」を掲げた。

「従来の精神野球がガソリンなら、合理性の野球は電気やモーター。それをくっつけて起動するハイブリッドです」。試行錯誤の末「もの言う選手」の育成にたどり着いた。「指導者から一方的に指示するのではなく、選手からも自由にものが言える双方向の関係」を目指した。

選手が話しやすい環境をつくるため、3年前から全員との個人面談「1on1(ワンオンワン)」を実践。土日を除く毎日、1人1回30分。もっぱら選手に自由テーマで話をさせ、竹内は聞き役に回る。内容は「Camino Real」(カミノレアル=スペイン語で「王の道」の意)と題したノートに残し、選手の個性と成長の過程を記した。

そこに、コロナ禍-。保健体育の教諭として感染症の授業を受け持つだけに、怖さは知っていた。自粛期間中、県内の近隣在住の選手同士を4つのグループに分けて練習させた。手紙も添えた。「見えない敵はウイルスではない。嘆き、失望、あきらめだ!」。

水戸一・竹内達郎前監督
水戸一・竹内達郎前監督

水戸一でのラストゲームとなった多賀戦。竹内は、個人面談の成果を選手に求めた。試合の4日前、「勝つための」先発オーダーを選手間で協議させ、スタメンを決めさせた。それは、竹内の描いたものとほぼ合致していた。「自分たちで野球ができるようになった。それこそハイブリッド車の“自動運転”です」。新チームで顧問に回る竹内は、一抹の寂しさと達成感を漂わせて、この夏を振り返った。(敬称略)

【玉置肇】