野球は「記録のスポーツ」と言われる。コロナ禍では球場に足を運べる人は限られるし、声援も控えなければならない。ならば自宅の楽しみ方として、スコアブックを付けながらテレビ観戦はどうだろうか。NPBの山川誠二記録員に助言をいただきながら、スコアについて学んでいきたい。

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スコアブックを付ける利点は試合の流れが把握できることだ。どんな場面で打席が回ってきたか、好調な打者、不振の選手、バッテリーの配球の傾向などが目に見えて分かる。

日本には2種類の記録法がある。明治時代の末に慶大野球部スコアラーだった直木松太郎氏が考案した「慶応式」と、同時期に飛田穂洲氏が考案し、早大監督在任中に紹介した「早稲田式」。NPB公式記録員が用いるのが前者。高校野球や大学野球の公式記録は後者で、報道陣もほとんどが早稲田式で書いている。

山川記録員 早稲田式は広く普及していて、多くのファンが記入できる一方、長い歴史の中で各団体や地方によって独自の記入法が継承され、統一性がなくなりつつあります。慶応式はプロ野球独自の記入法として受け継がれていて、公式戦が始まった1936年からずっと変わっていません。当時のスコアも容易に読み解くことができます。

不変だからこそ、何十年前の試合でも、どこでどんなプレーが起きたか想像できる。したがって「チームのマネジャーや大会の記録員では、共通の一般的な記号での記入が望ましいです」(山川記録員)。資料として残す場合には、正確に、誰が見ても分かりやすいスコアをつくることが重要になる。

それぞれの記入法の主な違いも教えてもらった。

◆枠内の補助線(早稲田式=ある、慶応式=ない)

◆塁の位置

早稲田式=右下から反時計回りに一塁→二塁→三塁→本塁

早稲田式が示す塁の位置
早稲田式が示す塁の位置

慶応式=右上から反時計回りに一塁→二塁→三塁→本塁

慶応式が示す塁の位置
慶応式が示す塁の位置

◆安打の記入法が異なる(視覚的に分かりやすいのは早稲田式)

◆失策記号が異なる(早稲田式=E、慶応式=,)

その他の法則は似ており、慣れればどちらでも書けるようになる。

同じプレーで見比べてみよう。先頭打者が空振り三振で1死。次打者が中前打で出塁、中堅手の二塁への悪送球の間に二塁進塁。次の打者が一飛で2死。最後は二ゴロで3アウトとなり、走者二塁残塁で攻守交代を表している。

早稲田式記入例
早稲田式記入例
慶応式記入例
慶応式記入例

だがいきなり、全ての統一表記を覚えて記録するのはハードルが高い。図を見ても「SO」とか「43」とか、何の暗号かと思う人もいるだろう。個人で楽しむなら完璧でなくていい。次回は実践編として、一般的な早稲田式の書き方を紹介する。【鎌田良美】