シニアやボーイズで名を上げ、高校で甲子園を目指し、大学、社会人、そしてプロへ。そんな野球人生のレールを外れても、白球を追い続ける若者たちがいる。神奈川・大和を拠点とする硬式クラブチーム「BBCスカイホークス」。現在29人が所属(3人は休会中)。高2から29歳まで、さまざまなバックグラウンドの選手が集う。日本野球連盟(JABA)には所属せず、アカデミー形式で活動。オープン戦で技量を上げ、上のステージを目指す。

BBCスカイホークスの選手たち。後列左は副島孔太監督、同右は宇佐美康広コーチ
BBCスカイホークスの選手たち。後列左は副島孔太監督、同右は宇佐美康広コーチ

「ドカベンスタジアム」こと大和スタジアムに、木製バットの乾いた打球音が響いていた。打撃練習が終わり、次はシートノック…のはずが、なかなか球拾いが終わらない。「何分、過ぎてる? まずいと思わないのか?」。ヤクルト、オリックスで活躍した副島孔太監督(46)は厳しく指摘した。「高校生には、あいさつ、言葉遣い、審判へのリスペクト。9割は人間教育です」。技術面は、元ヤクルトの内藤尚行氏(52)宇佐美康広氏(45)がコーチとして週1回ずつ指導する。トレーナー陣もいる。

スカイホークスの創設は14年3月。さまざまな理由で高校野球をドロップアウトした子たちの「受け皿」として始まった。運営するインディッグ社の代表取締役、安田厚氏(45)は、県岐阜商、近大でプレーした元選手。ある日、高野連のサイトで多くの野球部員が退部すると知り、衝撃を受けた。多い時は年間1万人近く。「彼らが将来、父親になっても、子どもには『野球なんか、やめちまえ』と言うのでは。これでは野球の発展は続かない。やめる子を1人でも多く救えたら『俺は続けられなかったけど、お前は甲子園を目指して頑張れ』と話す父親が増えると思うんです」。

練習後、学習支援センターで学ぶBBCスカイホークスの高校生選手たち
練習後、学習支援センターで学ぶBBCスカイホークスの高校生選手たち

野球教室やセミナーなどの事業を手掛けていた。そこに高校野球の土台が揺らぐ危機感を覚え、チーム創設を決意。高校生はルール上、1年間は転校先で公式戦に出場できない。やり直しのチャンスは限られる。退部・転校が野球をやめることにつながりやすい。だが、クラブチームなら、オープン戦とはいえ、実戦機会をすぐに提供できる。

平たんではなかった。準備期間とした13年、最初は選手が1人しか来なかった。安田氏、副島氏ら3人がかりで教えた。徐々に増えたが、当時を知る平林豊チーフトレーナー(37)は「最初は、やんちゃな子が多くて。『ROOKIES(ルーキーズ)』みたいでした」。今でこそ笑って振り返るが、練習後にたばこをぷかぷか、なんて子もいた。マンガではない現実があった。「怒りの沸点を上げ、1人1人と個別に話すようにしました。そしたら、家庭環境が複雑だったり。たまったものを吐き出させました」。そうやって関係を築いていった。

次のステージを見据え、金属ではなく木製バットを使う。高校生は当然、大学野球部が選択肢に入る。そこで、山梨の日本航空高校の通信制課程も運営。野球だけでなく、転校・編入して引き続き高校卒業を目指せる環境を整えた。午前9時から午後1時までの練習後は、小田急・大和駅近くの学習支援センターで週3回、1日2コマの授業を用意。寮も備え、北海道や沖縄など遠方からも受け入れてきた。【古川真弥】