千葉宗幸さん(19)は眉毛が太い。幼少期も、三塁を守った高校時代も、上京した今も。「アイデンティティーです」と笑う。「剃(そ)って整えても、他の人と一緒になるだけなので」となかなかのこだわりだ。

自分は自分。大船渡ナインでただ1人、浪人生活を選んだ。「高校野球が終わって、自分にあるものがあまりなくて。焦ってすごく高い目標設定をして、落ちて。納得いかなかったんじゃないですかね」

最初の受験から1年近くになっても、明確な未来図がなかなか見えない。「1周回った考え方というか、やりたいことがないなら1個専門的なところに行ってみたらいいんじゃないかと」。父にも後押しされて今、桜美林大の航空・マネジメント学群で学ぶ。

クラスで自己紹介した。「自分から言うのも気恥ずかしいので」と隠すつもりだったが、出身校をマストで言う流れになった。「大船渡高校です」に何人かが「佐々木朗希!」と反応し、なし崩しで全てが明らかに。「実は…キャプテンもしてました」と告白し、新天地に身をゆだねた。

新鮮な毎日だ。飛行機の搭乗経験は人生で2度のみ。基礎知識は目下、熱心に勉強中。周囲は違う。昔から全力で航空業界を志してきたクラスメートも多い。ある日「空港行かない?」と誘われた。「いいよ~」と軽い感じで答えた。当日、ビックリした。

「電車に乗ったら、友達が2人ともガチの一眼レフ持ってて『え、何それ!?』みたいな。自分は手ぶらなのに」

彼らのガイド付きで羽田空港を探検した。「なんか感動しましたね。知識欲というか、知らないことが分かるのはうれしいです」

楽しいこともつらいこともあった港町を巣立って、世界が少し広がった。もうすぐ20歳。「大きい子ども…になりたいです」と目を輝かせながら、今はしっかり学びに励む。「コロナが落ち着いたらヒッチハイクとかもしてみたいですね。ヒッチハイクで地元帰ったら楽しそうですし」。太いペンで「大船渡」と愛する故郷の名を書く。自分らしく令和をゆく。(つづく)【金子真仁】