野球は先攻、後攻、どちらが有利なのか? データが残るプロ野球で調べてみた。昨季の1軍全720試合は、後攻の392勝288敗40分け、勝率5割7分6厘だった。2リーグ制後、昨季までで、先攻が勝ち越したシーズンは、わずか3回(50、52、64年)しかない。ホーム、ビジターがあるため、後攻(ホーム)が有利となる面もある。

指示を出す二松学舎大付・市原監督
指示を出す二松学舎大付・市原監督

では、高校野球はというと、今夏甲子園に出場した二松学舎大付(東東京)・市原勝人監督(56)は「後攻です」と言い切る。理由はこうだ。「初回表と9回裏は選手の気持ちが落ち着かないことがあり、点数が入りやすい。後攻になって初回表に点を取られたとしても、まだ9イニングある。それなら追いつける。でも、先攻で9回裏に点を取られると、試合が終わってしまう。そういう意味で、9回裏を守る先攻より、初回表を守る後攻の方が精神的にいい」。実際、今夏の甲子園は、後攻の29勝17敗、勝率6割3分だった。「高校生は精神的な振れ幅が大きいですから」。いかに平常心を維持できるかが、カギを握る。

二松学舎大付は2試合を戦い、いずれも後攻だった。初戦(2回戦)の西日本短大付(福岡)戦は、2-0の完封勝ち。この試合、雨で1日順延されていた。実は、メンバー表交換までいった前日は、関遼輔主将(3年)がじゃんけんに敗れ、先攻となっていた。ところが、翌日の仕切り直しでは、じゃんけんに勝ち、希望通り後攻をゲット。試合も快勝とあり、市原監督は「ついてるなと思いました」と打ち明けた。

善行が巡ったのだろうか。チームは関西滞在中、6時半に起床。体操を終えた後は、宿舎の周りを歩き、ごみ拾いを日課とした。02年春、市原監督が指導者として初めて甲子園に来て以来、続けている習慣だ。「遠くから来て、地域の皆さんにご迷惑をおかけする。皆さんに応援してもらえるように」と滞在先への恩返しの意味と、もう1つは「ごみが落ちているのに気付かない子が、野球で気付くことはできない」というプレーにつなげさせる意味が込められている。

3回戦の京都国際戦は後攻の威力が発揮された。3点を追う9回、1死から桜井虎太郎外野手(3年)が起死回生の同点3ラン。好投を続けていた相手エース森下が9回先頭から安打、死球と乱れたところを突いた。まさに「精神的な振れ幅」が出た瞬間だった。もっとも、延長10回表に2点を失い、その裏は3者凡退で敗れた。市原監督は9回裏の同点劇に感激しつつも「あそこでひっくり返さないと甲子園は厳しい」と思ったという。勝負の流れをつかむのは容易ではない。

先制点を奪うため、先攻がいいという考えもできる。先攻か、後攻か。駆け引きは試合前から始まっている。【古川真弥】