最先端の知見や技術を将来、母国へ還元する。スポーツ科学R&Dセンター「ネクストベース・アスリートラボ」のアナリストは5人の精鋭たちがそろう。バイオメカニクス(生体力学)を学び、大学院で修士や博士課程を修了したエキスパートだ。そのうちの1人でスリランカ出身のニローシャン・プンチヘーワさん(34=以下、ニローさん)は、アナリストかつ研究員としてスポーツの発展に尽力している。

「ネクストベース・アスリートラボ」の施設内でデータを解析するニローさん(右端)
「ネクストベース・アスリートラボ」の施設内でデータを解析するニローさん(右端)

「スリランカでは、スポーツ分野において科学がほとんど使われていません。まずは日本の野球をさらに発展させるためにテクノロジーを活用したい思いもありますし、野球に限らず、他の競技においてもどう貢献できるか毎日考えています」

幼い頃から文武両道のエリートで、母国では工学系トップレベルのモラトゥワ大学に進学。機械工学を専攻した。その後は、日本の文部科学省の国費外国人留学制度で研究員として選出され、16年に来日。宮崎大学の医学獣医学総合研究科に所属し、博士課程では農学工学総合研究科でバイオメカニクスを学んだ。異色の経歴を持つ秀才は、ネクストベースの施設でジュニアから大学生まで主にアマチュア選手を担当し、打撃面での動作解析を行う。「取得したデータを正しく解析して、選手たちに分かりやすくアドバイスすることがアナリストの仕事です」と、選手のパフォーマンス向上へ一役買っている。

スリランカの代表選手として野球をプレーしていた経験もあるニローさん。12年前、世界大学野球選手権でプレーするため初めて来日すると、野球先進国・日本の高い技術や洗練された環境を目の当たりにした。それが、科学を活用したスポーツの発展に興味を持ち始めたきっかけにもなったという。

WBSC(世界野球ソフトボール連盟)によると、21年度の世界ランク1位は日本で、スリランカは同42位。アジアでは9位とまだまだ発展途上の現状だ。ニローさんは「小さい頃から野球が好きで、野球をやりながら勉強もしてきました。スリランカで、選手がプロレベルになれるように自分が学んだこと、サービスを提供したい。ネクストベースのような科学研究センターみたいな施設も、いつか自分の故郷につくっていけたら」と将来図を描く。国と国の懸け橋として活躍するアナリスト。野球と科学の発展が夢をつないでいる。【斎藤庸裕】(つづく)