運命のドラフト会議が明日26日に迫った。「指名を待つ男たち」の第2回テーマは「地方に現れた異色選手」。

10年間もプロが出ていない大学リーグの長距離砲。社会人3年間で1試合登板ながら、独立リーグ移籍1年目で159キロをたたき出した剛腕。スケール感では「中央」にひけをとらない2人を紹介する。

ドラフトファイル:椎葉剛
ドラフトファイル:椎葉剛

「野球はもうやめようと思っていました」。四国IL徳島・椎葉剛投手(21)は昨年9月の心境を思い返した。あれからわずか1年。最速159キロという衝撃的な肩書を引っさげ、ドラフト当日を待つ。

大阪出身で高校は島原中央(長崎)。甲子園とは無縁で、しかもチーム事情で捕手が中心だった。社会人の強豪ミキハウスには、投手として入社した。だが1年目の春に「1死も取れずに、ボコボコに打たれて」表舞台から姿を消した。公式戦登板は、その1試合だけ。3年で契約が終わった。「体が大人じゃなくて、ついていけなかった。野球という競技に体が合っていないのかな、とも思いました」。

野球から離れて数日で体がうずいた。湧き上がるエネルギーも感じた。「やっぱり悔しい。プロに行きたい。見返したいという思いでした」。徳島のトライアウトではMAXより遅い142キロしか出なかったが、合格を勝ち取った。

四国IL・徳島 椎葉剛投手(2023年10月12日撮影)
四国IL・徳島 椎葉剛投手(2023年10月12日撮影)

ウエートトレに初めて本格的に取り組むと体が見違えた。体重は半年で6キロ増。元プロでNPB指導歴が長い岡本哲司監督(62)の指導が水に合った。「全部が自分にはまりました」。春に150キロを超え、夏前には157キロ。「独立リーグで1番になりたい」。意欲は日々増していった。

運もあった。ソフトバンクの3軍、4軍と練習試合、公式戦合わせて約15試合戦った。プロの目に触れる機会が多く、投げるたびスカウトの数が増えた。9月下旬の独立リーグ日本一を決めるグランドチャンピオンシップ。初戦、富山との大一番で159キロをたたき出した。それまでも150キロ中盤を連発していたため、偶然ではないのは明らか。相手の大谷輝龍(ひかる=23)もこの試合で159キロを計測した。独立を代表する剛腕2人の意地がぶつかった一戦だった。

ロッテ佐々木朗希や大学4年生と同学年。異例の投手豊作世代。ずっとテレビの中の人だった彼らと、どれくらい距離が詰まったんだろう。26日に1つの答えが出る。「楽しみも不安もあって、名前が呼ばれるまで正直、何も分かりません」と胸に手をやった。

159キロの投球映像が広まり、たまたまSNSを始めたばかりの母親の目にもとまった。「これ、ホンマにあんた?」。昔の自分を知る人たちにも、そう思わせる1日にしたい。【柏原誠】