ドジャース大谷翔平投手(29)にスタンフォード大・佐々木麟太郎内野手(18)…島国の未来が、大海のかなたに広がっていく。渡った人、渡ってきた人、かつて渡った人。3人に「海を渡ること」を尋ねた。

BC神奈川に入団したミラン・プロコップ
BC神奈川に入団したミラン・プロコップ

国内独立リーグ、BC神奈川に入団したミラン・プロコップ内野手(21)は、あの感動を忘れない。

「日本の皆さんが、私たちを応援してくれたことに全員が本当に感謝しています。おそらく世界で一番のファンでしょう」

23年3月11日、WBC1次ラウンド。日本と戦うチェコ代表にも大きな声援が送られた。懸命さとスマートさ、明るさ。ロッテ佐々木朗希投手(22)が死球のおわびに大量の菓子を差し入れし、プロコップも「みんな気に入っていたし、その思いに本当に感謝しています」と喜んだ。

日本とチェコの精神的な距離は、その日を境に間違いなく近づいた。大学日本代表は今夏、首都プラハでの「ベースボールウイーク」にも出場する。しかし中欧の国は物理的にはやはり遠い。直線距離9000キロ超、直行便はない。7時間の時差がある。

「時差で家族や友人、恋人と気軽に電話をするのは難しいですね」

彼女と結婚し男の子1人、女の子1人…なんて将来を夢見る。だから大学を休学し、再来日を決断した。母国にいれば言葉も不自由なく、キャリアを重ねられる。それなのに米ノースカロライナ州でも2年間、プレーしたことがある。

WBCチェコ代表のミラン・プロコップ(Baseball Czech提供)
WBCチェコ代表のミラン・プロコップ(Baseball Czech提供)

「大好きな野球でお金を稼ぎたい。それでいつか、幸せな家庭を築きたい。チェコの野球はセミプロで、お金が出ないんです」

だから日本のNPBで、あわよくばMLBでのプレーの可能性を高めようと、BC神奈川からのオファーを快諾した。今は一塁を守り、日本野球に慣れる段階。滞空時間7秒台の中飛に川村丈夫監督(51)も「パワーはやはり日本人ばなれ」と期待する。好きな日本語は「ヤキニク」だけれど、好きなチェコ語は“勤勉な仕事”を意味する「piln■ pr■ce」(ピルナ・プラーツェ)だという。(■はアキュート付きのa)

勤勉でありたい。チェコはヨーロッパのど真ん中に位置する内陸国で、地中海のベネチアまでも800キロ近くある。「でも両親がとても勤勉に働いてくれたおかげで、5歳くらいから毎年、バケーションでイタリアやスペインの海に行けたんです」。海があり、その向こうにも異国がある。両親が教えてくれた。

海の向こうでプロ野球選手になって、その先に-。「大学で経済やスポーツマネジメントの勉強をしています。いつか大学に戻って卒業して、マネジメントにも携わりたい。身につけた全てのスキルを生かして、いつかチェコの野球をプロ化させたいんです」。

サーティーフォー保土ケ谷球場の記者席でそんな夢を聞く私はスニーカーを履き、プロコップの足元は紫色のソックスだ。「スパイクだと床を傷つけちゃうので」。チェコは室内で靴を脱ぐ文化とはいえ、異文化をリスペクトしながら生き抜く。「ここは自分をさらなるレベルに引き上げる最高の場所と信じています」。BC神奈川は13日、横須賀でのホーム開幕戦を迎える。【金子真仁】(つづく)

◆ミラン・プロコップ 2003年2月12日生まれ。チェコ東部のブルノ出身。23年WBCの日本戦では代打で登場し、オリックス宮城との対戦で空振り三振。185センチ、86キロ。右投げ右打ち。BC神奈川では背番号56。