阪神タイガース掛布雅之前2軍監督の退任劇がいまだに寂しい。2年間ずっと現場を見てきた。誰もが認める苦労人。無名の選手から練習に練習を重ね、並々ならぬ努力で球界のスターにまでのぼり詰めた。心、技、体、自分自身の精神力、責任感は打線の軸としてチームを支え、野球を通して培ってきた。己に妥協しない体験をしてきたからわかる選手の気持ち。指導は自らを選手目線にまで下げてアドバイスしてきた。「ちょっと優し過ぎたかな」はジョークだが、OBの立ち場から冷静に見て「打って付けの2軍監督」と自負していただけにもったいない気もする。

 普通、ファーム首脳陣の交代といえば、若手が育たないケース。1軍のチーム作りと方針が合致しないケース、番外編では問題発言のケースがあるかも知れない。

 私はプロ野球の世界を選手で経験し、フロントから、そして、マスコミからも接してきた。今回、鳴尾浜球場をよく見渡してみると、若手は育っている。交代させる理由は見当たらないような気がするのだが、さて本当のところはいかに。組閣人事はよく見てきたが、もともとファームの場合はフロント主導であるべきだと思っている。若手が力をつけて、ひのき舞台で活躍しているなら、一方だけのわがままは拒否するべきだと思う。

 掛布氏はフロント入りするようだ。ポジションはまだはっきりしていないが、我々から見ても一番いいかたちで球団に残ってくれそうだ。野球を基本にした掛布氏のイメージは(1)あの根強い人気(2)あの根気ある指導(3)あの馴染みやすい気さくな人柄(4)あの引き出しの多彩なこと(5)あの積極的なファンサービスなどなど、どんな角度からイメージしても、実にもったいない人物である。年齢的にもうユニホームを着るチャンスはないのだろうか。

 2軍でタクトをふるってわずか2年だった。みんなに愛された「ミスタータイガース」「野球大好き人間」。若トラの育成には人並みならぬ情熱を注いでくれた。その甲斐あって昨年から甲子園で、掛布前2軍監督が一緒に汗を流した“掛布チルドレン”と称する若手も活躍しだした。各選手の名前が新聞紙面を飾り、はつらつとした表情をテレビ画面を通じて見ることができるようになったのはうれしい限りだ。

 「満足している部分と、もう少し時間があればという気持ちと半々ですが、僕を若返らせてくれた2年間でしたね」。掛布氏は背番号「31」のユニホームを着て若い選手の指導にあたった2年間を振り返ったが、若手成長の遺産を鳴尾浜球場に残してくれたのはありがたい。

 フロントOBの期待感として、ペナントレースでは常に優勝争いのできる常勝軍団を築いてほしい。そして、一度は1軍で指揮を執るミスターの姿を見たい気もするのだが…。【本間勝】(ニッカンスポーツ・コム/野球コラム「鳴尾浜通信」)