貯金“28”余裕の優勝。今季ウエスタン・リーグを制した阪神の強さはどこにあったのか。戦いの中で目立ったプレーといえば盗塁のみ。163個で同リーグの記録は塗り替えたものの、スチールの数だけで残せる貯金の量ではない。矢野燿大監督はじめ、各首脳陣の話を聞きながらポイントを分析してみると、若手成長には欠かせないコミュニケーションがはかられていた。首脳陣と選手間の意見交換。納得して前へ進めたのだろう。その陰には超積極的野球が-。

超積極的野球。矢野監督がファームで指揮を執るにあたって掲げた方針。同監督との会話の中で「積極性は今年のスローガン“執念”に通じるなあ」と話をしたことがあるが、オープン戦から徹底して指導にあたっていた。練習試合の時期に、このコーナーで取り上げたと思うが、なんとゲームでそのイニングの先頭打者に3ボール、ノーストライク、要するに我々の時代で言うならノースリーからでも、ヒッティングの指示を出していた。本来ならこの方針は邪道。次がボール球で出塁できる可能性もあり、ストライクでもまだカウントは有利。1球は待つのが基本であるにもかかわらず、あえて打たせているのを見たときには「ここまでやるか……」正直驚いた。

「一度はやってみたいポスト」とも語っていただけに、狙いは多々あったと思うが、積極的野球は選手と首脳陣の考えと気持ちを結びつけるのに貴重な存在となった。「大体は自分の思っていたのに近い1年でした。もちろん、高山とか1軍に定着できなかったことなど、結果を出せない面もありましたが、どちらかといえば楽しくできました」投手では新人の谷川がデビューした。望月がリリーバーとして1軍に定着した。野手では昇格して即、上本が前半の低迷するチームを活性化した。ファームでバッティングに、守備に四苦八苦しながら懸命に野球に取り組んでいた北條は、1軍でコンスタントに力を発揮しだした。ただ、残念ながら両選手ともプレー中の故障で戦列を離脱したのが悔やまれる。

「本当に残念です。北條はそんなに守りはうまくない。確かに故障は気の毒ですが、僕はあの打球を少々無理をしてでも飛びついて捕球しようとしたところに、ファームで懸命に練習をしていた北條らしさを見せてくれたと思います。あれが北條です。少しでも早く治ってほしいですね」懸命に野球と向き合う北條を見続けてきた人の談話だ。

コミュニケーションが軌道に乗り出したのは、同リーグが1カ月を経過した頃だった。選手がチームの方針に対して自分から進んで行動できるようになった。各担当コーチの話を聞いてみた。

浜中治バッティングコーチ「監督の打ち出した積極的なバッティングをするには、どう対処すべきか。打席に入る前の考え方。狙い球は、精神的な面など選手の意見を聞いたり、また、こちらの考えを伝えたり意見交換をすると、お互いの気持ちが分かり合えたりしますので、後の指導にもプラス材料になりました。選手たちも初めの1カ月ぐらいは戸惑っていましたが、今はもう当たり前になっています」結果には満足している。

福原忍ピッチングコーチ「選手とはよく話し合いましたね。彼らがやることに納得して挑戦するのと、半信半疑でやるのとでは取り組む時の気持ちは全然違いますからね。今後もお互いに納得するまで話し合っていきたいですね。目立って良くなった人といえば守屋(功輝)ですかねえ。これから宮崎でフェニックスリーグがありますが、ここでは、個人的なレベルアップは当然のことですが、みんな少しずつ投げるイニングを増やそうと思っています」さらなるレベルアップが狙い。

藤本敦士守備走塁コーチ「守りでも、第一歩がひと呼吸遅れるだけで、捕れる打球が捕れなくなる。なぜ遅れたかを追求しながら話し合いました。盗塁でも、ただ走ればいいというものではない。その時の状況判断も含めて、いかにチームが必要としている時に走れるかです。投手のクセなどを頭の中で描いて、自分が主導権を握って走るチャンスを見極めることですね。盗塁でも疑問点があればどこまでも追求します。やっぱり話し合いですね」コミュニケーションの重要性を強調した。

矢野監督もコミュニケーションを大事にする人。超積極性という、一つ一つのプレーに対して積極的に挑む方針が、首脳陣と選手間の対話を生んだ。選手の意見を聞く。返事がくる。選手の考えていることが分かる。コーチの意見を伝える。お互いの考えが分かり合える。意見が一致するならそのまま突き進めばいい。食い違えば一致するまで話し合う。そして、互いが納得して練習に打ち込む。目標が決まれば自分から進んで行動できる。自主性が生まれる。事はスムーズに回転した。来季も注目したい。【本間勝】(ニッカンスポーツ・コム/野球コラム「鳴尾浜通信」)