広島大瀬良大地投手が5月度のセ・リーグ投手部門で「日本生命月間MVP賞」を初受賞しました。5月は2完投を含む4戦4勝、防御率2・03の好成績。首位広島を支える立派な成績です。

 その報を受けて、思い出すのは、やはりあの出来事です。

 17年8月16日、阪神-広島戦(京セラドーム大阪)。この試合、制球難に苦しむ阪神藤浪晋太郎投手が2軍調整からの復帰登板に挑みました。広島の先発は大瀬良。しかし藤浪が大瀬良に死球を当ててしまうという事態が起こりました。

 尻もちをついた大瀬良でしたがとっさに手を振り「大丈夫。気にするなよ」とばかりに笑顔を見せたのでした。親交があることに加え、藤浪が制球難に悩んでいることを知っていたための行動でした。

 ネットなどでは若いファンから「神対応」などと言われ、称賛を浴びました。

 しかし、その翌日、大瀬良は緒方孝市監督から監督室に呼びつけられました。

 「人の良さはグラウンドの外でやってくれ」。こういう趣旨のことを言われ、シンプルに言えば、しかられたのです。

 のちに緒方監督とその話になったとき、この叱責(しっせき)について、こう話していました。

 「今はああいう感じになっているけれど、本来、藤浪は一流の投手です。実力を出せば、どんな打者でもそうは打てない。藤浪がしっかりすることは日本の野球のレベルを上げるためには大きな意味があります。でも我々は、今は、チームとしてプロとして戦っているんです。ハッキリ言って藤浪が本来の力を出せなければカープにとってはいいことなんです。大瀬良はそこを分かるかどうか、ですね」

 言うまでもありませんが、プロ野球、勝負の世界で「メシを食っていく」ことの厳しさを伝えたかったのです。

 表情から好人物であることがあふれている大瀬良のことは好きですが緒方監督の言うことも納得できました。

 なにしろ、この世界です。いつも書きますが、いい成績が出れば普通の勤め人では手に入れられないお金をあっという間に得られる一方、ダメなら若くして無職になってしまう。

 プロ野球選手は常にそういう環境に置かれているのです。それを考えれば厳しさが前面に出てこなければ話にならないということでしょう。

 野球だけでなく本気で競うスポーツに厳しさは欠かせません。高いレベルでのプレーはあとで振り返ってみれば楽しいでしょうが、やっているときは真剣。おもしろおかしくやっていて勝てるはずがありません。

 特にプロはそうです。失敗したり、信頼を失ったりすれば生活に直結します。選手の側からすればミスや失った信頼は結果で見返す。プロ選手にはこれしかないのです。

 今季ひとまわり成長した大瀬良。もちろん技術的、体力的に進化があったことは言うまでもありません。同時にその背景に、あのときのことが好影響を及ぼしているのかもしれない、そう思っているのです。

 大瀬良とはしっかり話せていないし、ひょっとしてあの笑顔で「それは関係ありません」と言うかもしれません。それでもこちらの勝手な想像が当たっているとするのなら、やはり、緒方監督の率いる今の広島カープは、強いと思います。