田村藤夫氏(62)が、フェニックスリーグ取材から、日本ハムの高卒4年目・清宮幸太郎内野手(22=早実)のバッティングを解説する。

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才能は、開花して初めて光を浴びる。私は清宮のバッティングに才能の一端を感じる。遠くへ飛ばす能力は天性のものだ。私はホームランバッターではない。飛ばす能力を深く探ることはできないが、私は幸運なことに、現役時代には落合さん、門田さん、清原、秋山という強打者をマスク越しに見てきた。

それこそ、ホームランを打った瞬間、誰よりも近くでそのインパクトを体感してきた。味方投手が打たれているのだから、口が裂けても「自慢」とは言えない。胸を張って言えることではないが、ホームランバッターの才能の一端は体験している。

今はスタンドから清宮の打席を見る。清宮の打席の時は、あたかも自分がミットを構えているかのように、私の視線を捕手の視線とシンクロさせる意識で清宮のスイングを考える。

18日のフェニックスリーグのオリックス戦でも、私は先発した柿木のピッチングに集中しつつ、清宮の打席はじっくり観察した。

第1打席はカウント1-2から外角ストレートを三遊間への内野安打。いい感じでバットが出ていた。外角に意識がある中で、迷わずスイングした印象だ。

第2打席、初球外角低めストレートを中途半端なスイングで三ゴロ併殺打。

第3打席はカウント1-1から、外角ストレートを左翼への飛球。左投手の外角球を、これも仕留めようという意図があるスイングだった。

第4打席。1点負けている最終回、2死一塁。1発でれば逆転の場面。投手は張奕(ちょうやく)、捕手は育成の釣(つり)というバッテリー。初球内角低めのストレートを右飛。狙っていたスイングも、打球は詰まった。対応できていない。

第2打席の初球を見て私は思った。そんなところを打つのか。イースタンでホームランを19本打っているが、どこのコースを仕留めようとしているのか。清宮が狙っているボールじゃなければ、そのボールを打つ必要はないだろう、と。

結果から指摘していると思われるだろうが、私の真意はそうではない。

何を狙うのか。清宮の才能が開花するか、しないかは、何を待っているかということと密接に関係している。

第1、第3打席は外のストレートを念頭に置いたスイング。ほぼ芯で捉えていた。自分のバッティングのコンディションと相手バッテリーの攻め方を頭に入れ、この日の試合では外のストレートに重きを置いていたように感じる。

ならば、第2打席の外角低めに手を出したのはどうしてなのか。テーマにしていた外角に飛び付いて打ちに行くも、思ったよりもボールが低い。一瞬の戸惑いでスイングが鈍り、中途半端なバッティングになったのかもしれない。

相手バッテリーも外角は要注意という意識で攻めてくる。より低めに、低めに、と警戒するのを、しっかり頭に入れておけば、清宮の対応も変わってくる。

調子が良ければ、自分の得意なコースならば、カウントに関係なく打ちにいく。もしも、清宮がそういう考え方で打席に入っているならば改める必要がある。

自分の長所は、対戦バッテリーとの駆け引きの中で発揮される。相手バッテリーが弱点を巧妙に攻めてくれば、バッティングを崩される。すべては相手があって勝負は始まる。勝負事の大原則のところで、私は清宮のバッティング内容に物足りなさを感じる。

つまり、備えができているのか、ということだ。自分本位の備えではない。1打席に全力を全うするにふさわしい備えをしているのか。

清宮を追い詰めているようで心苦しい。バッティングは専門外なのに、こうして熱くなってしまうのは、捕手経験者として清宮のバッティングに淡泊なイメージを受けるからだ。

第4打席。私は初球が投じられる瞬間、バッテリーの動きを見ていた。途中で頓宮に代わりマスクをかぶった釣は、インコースに構えた。逆転もあり得る場面でインコース。普通はあり得ない入り方だ。2ランで逆転だ。インコースはそういう危険をはらむ。それでも初球インコースのストレートを選択した。この日の張の最速は152キロ。清宮は内角の半速球は仕留めるが、145キロ以上なら詰まる。見下ろされているということだ。

私は清宮のスイングに、このインコースを予期していたと感じる。ここまで3打席はいずれも外のストレートを打っている。バッテリーが初球インコースから入ってくることを読み、そのインコースを仕留めにいったのだろう。しかし、詰まっている。内角半速球は打てるスイングでは、この日の張の球は仕留め切れないということだ。自分のスイングと、打った感触にわずかだが決定的なズレがあり凡打に終わった。

内角のストレートのコースはベース板の端から、ボール1個半ほど中に入っていた。甘くもないが、厳しくもない。しかし、球威は清宮を詰まらせるに十分だった。

右打者になるが、落合さんも清原も、決して内角を得意にしてきたわけではない。そうそうたる強打者も、ギリギリの厳しいコースを攻められれば打ち取られる。厳しい内角のストレートは、どんな打者にとってもウイークポイントになる。

だからといって内角すべてが苦手かと言えば、そこが並の打者との違いで、わずかでも甘くなれば仕留める確実な技術を持っていた。そして特に落合さん、清原は右中間へ長打を打った。外角と、わずかでも甘くなった内角、ここを確実に仕留めるから強打者として恐れられた。

清宮のスイングは速いと私は感じる。さすがにヤクルト村上と比べることはできないが、シャープなスイングだ。そして、遠くに飛ばす能力を備えている。左手で押し込む技術があるからなのか、バットとボールの接する時間がほんのわずかに長く、「乗せる」ことができるからか。そこは私には想像できない領域だ。

何を打つのか、打つべきボールは決まっているのか。打つ必要のないボールを打っていないのか。私の清宮への問い掛けはシンプルだ。(日刊スポーツ評論家)