田村藤夫氏(62)が、日本ハムの沖縄・名護キャンプで新庄剛志監督(50)を取材した。およそ30分の会話の中から、選手に求める具体的なものの一部が見えてきた。

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早朝から雨がパラつく中、ブルペンではドラフト8位の大卒ルーキー北山亘基(22=京産大)が投げていた。私は横から見ていたので球筋ははっきりわからなかったが、それでも「オッ」と思うまっすぐ。速さがある。いいボールだなと思った。

すぐに稲葉GMが打席に入る。新庄監督も投手の後ろから球質をチェックしていた。聞けば、北山は2軍からの報告により、第1クール後に1軍昇格してきたという。これからの日本ハムは他球団よりも活発な1軍、2軍の入れ替えになるだろうと感じた。

ここで、北山のまっすぐで、捕手清水がややキャッチングに精彩を欠く。もう少しミット音が鳴ってもいい場面。稲葉GMが間髪入れずに「音、音」と、清水に声がけをした。ルーキーが、首脳陣が見ている前で投げている。ここは、プロ8年目の先輩として、清水も最高のミット音で後押ししてやりたいところだ。

ミット音は鳴ればいいというものでもないし、しっかり受けても鳴らないことはある。とは言え、そうしたちょっとしたことも、稲葉GMの声がけで、清水の集中力も変わってくる。北山も、こうしたやりとりを見れば、しっかり見てくれていると感じるだろう。

午後は室内でのフリーバッティングだった。ここで、新庄監督の話を聞くことができた。前日、中日立浪監督は新庄監督について「野球に対して深く、しっかり考えているなと感じました」と言っていた。私が日本ハムのコーチ、新庄監督が選手だった時以来、久しぶりの対面だった。

「田村さんだったらキャッチャーは誰を使いますか?」と質問された。なかなかの厳しいコースを攻められた。「これという決め手がもうひとつかな」と答えると「そうなんですよねえ」と言いつつ、6年目の郡の名前を挙げながら、打撃に期待していると付け加えた。今は捕手に求められる能力はどんどん高くなっていく。ディフェンス面はもちろんのこと、打力も必須。新庄監督もここは思案のしどころのようだ。

会話の中で、いかにも新庄監督らしいなと感じたのは、バッティングについてだった。「僕は走者がいた時は燃えましたねえ。でも、走者いない時はなんかやる気が出ませんでした」。ストレートに思ったままをズバリと言う。これが特別なキャラクターの新庄監督でなければ、違和感を持って聞こえたかもしれないが、そんなものはまったく感じない。型破りのスーパースターゆえのカリスマ性ということか。

走者がいる時こそ、燃えるバッターでいてほしい。こういう考え方をあらためて言葉で聞くと新鮮に感じる。「ですから、そういう気持ちの持ち方、メンタル面をどう選手に伝えてあげられるか、なんですよね。そういう気持ちで打席に入り、思いっきり勝負してほしいんです」。目指す物はシンプルだ。得点へつながるバッティングということだ。

そのために、長打のある野村、強い武器になりそうな五十幡の足、こういう要素を絡めて戦っていこうという姿勢なのだろう。戦力を見ると、他球団に比べて苦しいのは新庄監督もよく分かっているはずだ。こんな言葉も飛び出した。「勝とうなんて思ってませんよ。でも、びっくりさせてやりたいんですよね」。

私はこう解釈した。現有戦力を冷静に見た時、まずいかに得点に結び付ける野球をするか。そして、そうした意表をつくスタイルを見せることで、他球団の警戒心をあおり、そこで生まれたスキをつくということか。それが具体的に何になるのか? 五十幡に代表される機動力になるのか、もしくは作戦面での仕掛けになるのか。どちらにせよ、他球団に、新庄日本ハムは何かをしてくる、と思わせるためにも、開幕早々に何かしらのアクションが予想される。

「1軍で実績のある選手も状態次第で下に落とします。逆に2軍でいい報告があればすぐに上で使います」。どの監督も同じことを言いつつ、シーズンに入ると目の前の1勝のために、どうしても硬直化しがちだ。プロ野球にありがちな体質も、新庄監督ならあっさり乗り越えてしまいそうだ。現に、この日見た北山のボールには可能性があった。

今季の日本ハムの観客動員はこのコロナ禍にあっても、上々の滑り出しを見せるだろう。新庄監督就任がその原動力になったのは間違いない。監督はあくまでも、現場での勝負の最高責任者であるが、多くのファンを球場に集める監督の人気は、プロである以上とてつもない能力と言える。

決して潤沢ではない戦力で、抜群の知名度の新庄監督がどんなタクトを振るのか。1軍、2軍の往来が活発になり、どの選手にもチャンスがあり降格がある。選手には一瞬たりとも安穏とできない厳しいシーズンになりそうだ。真剣に、そして深く、チーム状況と選手の力量を把握しようと動き回る新庄監督が、どんな試合を見せてくれるか、期待したい。(日刊スポーツ評論家)

ブルペンで河野の打席に入り、球筋を見た後に遠くを指さす新庄監督(撮影・佐藤翔太)
ブルペンで河野の打席に入り、球筋を見た後に遠くを指さす新庄監督(撮影・佐藤翔太)