この時期が来れば、あの試合のことを思い出す。ちょうど10年前の6月だった。東海大相模(神奈川)のエース・菅野智之投手(巨人)と成田(千葉)のエース・唐川侑己投手(ロッテ)が、練習試合で圧巻の奪三振ショーを繰り広げた。当時、入社1年目だった記者は千葉担当。ドラフトの目玉だった唐川の取材で向かったが、ストライプのユニホームを着た細身のエースに目を奪われた。

 試合は2-2で引き分けたが、菅野が奪った三振は「19」。三振数も目を見張ったが、140キロ中盤から後半の直球をコンスタントに投げ、スライダーはキレキレ。コントロールも抜群で、投手としての完成度の高さに驚いた。菅野はプロ志望届は提出せず、東海大に進学。12年ドラフト1位で巨人に入団した。日本のエースと呼ばれる彼の成績は、周知の話である。

 衝撃の投球から7年後、運命? に引き寄せられるかのように、巨人担当の記者として、菅野と初対面した。場所は自主トレの地・米国アリゾナだった。もちろん、プロ2年目に臨む菅野の意気込み、トレーニング取材が主な目的だったが、あの日のことも聞きたかった。「実はあの時、現場にいたんです」と伝えると、菅野は「もちろん、あの試合のことは覚えてますよ」と笑顔で話した。

 当時、衝撃的な投球を見た側からの素朴な疑問を菅野に聞いた。「高校で入っても、上位指名だったのでは?」。菅野は首を振って、こう答えた。「誰もが認めるドラフト1位候補なら、考えたかもしれません。でも、あの時の僕はまだまだ。コンスタントに力を発揮できたかと言われれば…。体も細かったし、大学でしっかり鍛えようと」。この夏、再び高校野球の取材現場に戻った。今年は、どんなシーンに巡り合うのだろうか。【久保賢吾】