昨秋任期満了で慶大野球部助監督を退任した林卓史氏(43)が著書「スピンレート革命 回転数を上げればピッチングが変わる」(ベースボール・マガジン社)を出版した。

林氏は17年、当時3000ドル(約33万円)したトラッキングシステム「ラプソード」を自費購入。球の回転数や変化量を計測し、客観的数値をもとに投手陣を整備。慶大は17年秋にチーム防御率3・38(リーグ2位)、18年春は同2・08(同1位)を記録、連覇した。独自の指導法などを聞いた。

◇  ◇  ◇

-助監督就任直後の16年春に明大に0-18で惨敗。投手陣は加藤(現広島矢崎)以外はどうにもならない状態だった

林 18点は屈辱でした。ウチの投手はどう見ても球が遅いし、130キロ台後半じゃ簡単に打たれる。140キロでも打たれますけど、変化球も交えればまだ打者が崩れる。リーグ戦後にスピードガンで球速を測り始めた。そしたら球速が上がって。数値を見せると選手も工夫するんです。

-今の子供たちは経験則で言ってもついてこないと

林 前任の朝日大では僕が監督で怖いから選手も言うことを聞いてくれた。でも慶応ではただの40過ぎのおじさん。昔(慶大や日本生命で)やってたと言っても通用しない。それに経験則でやるなら僕は元プロでもないしコーチできない。

-17年2月からラプソードを導入

林 基本的に球速が出ると回転数も上がる。基準は2300回転。それくらいになれば大学生が空振りしたりフライアウトが多くなる。ウチでそれを超えるのは佐藤宏樹と石井雄也の2人だけ。でも回転数の少ない投手はフォークやツーシームが良い変化をしたりする。少なければどうするかを考える意味でも回転数は大事。

-17年オフに米シアトルにあるデータに特化したトレーニング施設「ドライブライン」に英語でメールを送り、見学を許可された

林 球速を上げるため重いボールを投げては計測して。その中でバウアー(インディアンス)が変化球をラプソードで確認しながら投げていた。同僚クルバーの球の回転数、回転軸、変化量を完全コピーしようとしていた。極論を言うとコーチなんかいらない。数値を近づければクルバーと同じスライダーが投げられるのだから。

本の中で単にラプソードの使い方だけでなく、その数値でどう慶大の投手を指導したかまで詳細に記している。企業秘密を明かして大丈夫なのかと心配になるほどだ。ただ同書の前書きを読めば納得する。「ノウハウを自分だけのものにしておくのではなく、みんなで分け合えば、日本の野球のレベルが上がるのではないか」。素晴らしい姿勢だと思う。