古い話で恐縮だが釜本邦茂に長いインタビューをしたことがある。68年メキシコ五輪で銅メダルを獲得した代表のストライカー。言うまでもない日本サッカー界のレジェンドだ。戦後50年企画の大河連載「この道」の一環だった。
いろいろな話を聞いたが面白いなあ、と思ったのは自身のゴール(得点)とチームの勝敗についての考え方だった。簡単に説明するとこんな感じだったと記憶している。
A 自分がゴールを決めて試合に勝つ。
B 自分のゴールはなかったが試合には勝つ。
C 自分はゴールを決めたが試合に負ける。
D 自分にゴールはなく、試合も敗戦。
この4パターンを示した上で「最高なのは当然、Aやな。これは気持ちがいい。最悪なのは、そりゃあDやろ」と言った。その次がすごかった。「俺はBよりCの方がよかったな」と言い切った。
「自分にゴールはなかったけれど試合には勝った」より「試合に負けても自分がゴールを決めた」方が気分はよかったというのだ。チーム・スポーツでは、なかなか言えない言葉に思えたが「ストライカーというのはそういうもん。そうでなければあかん」と笑っていた。
サッカーと野球は違う。それでも特に本塁打打者については自分の結果とチームの勝敗との間の考えについて、似ている部分があるかもしれない。自分は本塁打を放ったが試合は負けた。自分は打てなかったが試合には勝った。どちらがいい? という話だ。
大山悠輔に本塁打王争いのトップになる26号先制2ランが出た。しかし先発高橋遥人がピリッとせず、打線も追加点を奪えずに阪神は逆転負けを喫した。
釜本の理論で、大山に質問したとすれば、彼のタイプ、普段の言動からして歓迎の順番は「ABCD」になるだろう。若い選手ならそれが当然だし、今はそれでいいと思う。
先制2ランはよかった。欲を言えば2点を追う8回、2死一、三塁の場面で打てれば最高だった。そういう打者になってほしいと思う。簡単ではないが、そんなことを期待できる打者は12球団でも数少ない。
タイトル奪取はもちろん、来季以降、相手に脅威を与える意味でも大山には「A」はもちろん「C」も受け入れ、本塁打を狙ってほしいと思う。(敬称略)【高原寿夫】(ニッカンスポーツ・コム/野球コラム「虎だ虎だ虎になれ!」)