支配下登録されることが濃厚な渡辺雄大が9日広島戦(甲子園)に2番手で登板。5回1イニングを無失点で抑えた。「1枚でも2枚でも左が入ってくるとウチにとっては大きい。そう(支配下と)思ってオレも取っている」。すでに指揮官・矢野燿大がそう話すなど、戦力として計算している投手だ。

青学大から独立リーグを経て17年の育成ドラフトでソフトバンクに入団した渡辺。20年から2年間は支配下登録されたものの昨季限りで戦力外となった。しかし変則左腕の投球スタイルに可能性を感じる阪神がこのオフに育成契約で獲得。31歳にして新たな野球人生の続きとなっている。

その渡辺、一部で注目されているのが「なべじい」という愛称。渡辺について取材を受けた矢野が虎番記者たちにそう言ったことで少し話題になった。若い虎党は知らないかもしれないが、往年のファンなら必ず思い出すあの「たむじい」にかけての呼び方だ。

「たむじい」こと田村勤。サイド気味から投げる変則左腕として91年から10シーズン、いわゆる「暗黒時代」の阪神でクローザーなどで投げ続けた。最後の2年間はオリックスに所属、02年限りで現役を引退してからは選手をサポートする側に回り、長く「田村整骨院」(兵庫・西宮市)を開設していた。

しかし、それをこの3月いっぱいでたたむという話を聞いた。理由は1つではないが郷里・静岡に残す84歳になる母親の存在が大きいようだ。「それだけでもないですけどやはり気になるので…」。手がけているアマチュア野球の指導などは続けるが、ここで1つの区切りにしたいと電話の向こうで話した。

田村は矢野が渡辺を「なべじい」と呼んだことは知らなかった。「そうなんですか? 矢野監督がボクのことを覚えてくれているということかな。そりゃあ光栄ですよ。うれしいね。渡辺投手には頑張ってほしいです」。そう笑った。

「60歳を前に気にかかることをやっていきたい」。そう話す田村の決断は渡辺にも通じるところがあると思う。人にはそれぞれ生き方がある。どんな運命であれ、いくつになっても自分を信じて向かっていく。それが人生だろう。今季、渡辺が阪神ブルペンの一員となれば、田村のことも虎党にまた思い出されるはず。それが長く続くプロ野球の味わいでもある。(敬称略)【高原寿夫】(ニッカンスポーツ・コム/野球コラム「虎だ虎だ虎になれ!」)