派手なヒーローではないが明らかに流れを変えたのは梅野隆太郎だろう。3回、四球で出塁すると伊藤将司のうまい犠打で二塁へ進んだ。そして1番中野拓夢に対する松葉の2球目に三盗を敢行。松葉のモーションを完全に盗み、三塁を陥れたのだ。これが梅野の今季初盗塁だった。

前日、湯浅京己が打たれて4連敗。この日も序盤に失策が出てイヤなムードのチームに元気をもたらす盗塁だったと感じる。ここから一気に打線がつながり、試合を決める大山悠輔の適時三塁打につながった。

「梅野の三盗」と言えば思い出すシーンがある。指揮官・矢野燿大1年目だった19年6月9日の日本ハム戦(甲子園)だ。1点を追う7回裏、1死二塁から二走の梅野が三塁に走り、焦った相手捕手の悪送球もあって一気に同点のホームを踏んだ。この勢いで最後は原口文仁のサヨナラ安打で勝利したのである。

記憶に残るのはその試合後、インタビューを受ける矢野の様子だ。「リュウ(梅野)が…。あそこで走るのがどれだけ勇気がいるか…。本当にすごいんですよ」。そう言って絶句。闘病から復帰した原口の活躍もあり、涙で話せなくなるほど感動していた。今から思えば懐かしいシーンだ。

あれから3年。自ら今季を監督としての「最終年」と位置づけた矢野の戦いは苦しい日々が続いている。昨季から待望の和製長距離砲・佐藤輝明も加入したが、それでもチームの浮沈に影響するのは、やはり足で攻める野球だろう。

「ウチの盗塁数が多いと言われますけど“盗塁をしている選手”が多いところが大事だと思っています」。外野守備走塁兼分析担当コーチの筒井壮はかつてそんな話をした。近本光司、中野拓夢ら俊足の選手だけでなく、意外な選手が走れるのが強みという意味だ。

誰でもどこでも、隙あらば走る。それが矢野が1軍監督になって強調してきた「オレたちの野球=超積極的野球」の基本のはず。そんな中で特に梅野は“走れる捕手”として存在感を示してきた。その19年シーズン、梅野は実に14盗塁を決めている。

この三盗が梅野の今季初盗塁と書いたが今季は併用制もあって「捕手の盗塁」自体、これが初めてだ。作戦は時間の流れに伴って変わっていくものだし、選手の好不調にも影響されるが、この面でも梅野の存在感は重要だと思う。(敬称略)【高原寿夫】(ニッカンスポーツ・コム/野球コラム「虎だ虎だ虎になれ!」)

中日対阪神 7回表阪神1死二塁、中野の中飛で三進する梅野(撮影・上田博志)
中日対阪神 7回表阪神1死二塁、中野の中飛で三進する梅野(撮影・上田博志)