今季初の広島戦。11日先発予定の大瀬良大地と話をした。会えば会釈程度はするけれど久しぶりである。あいさつだけと思ったら「おお。元気ですか?」とニッコリ。会話の中で話題は大リーグのことになった。

大谷翔平はいうまでもなく広島OBの鈴木誠也、そして山本由伸、今永昇太と大リーガーが増えた。「今年はホントすごいですよね」と大瀬良。こちらとすれば彼もいつかは挑戦するのでは…と思っていたので「そういうのを見ててどうなの?」と聞いてみる。

「いやあ、ボクなんて。目の前のことに精いっぱいですよ」。あの笑顔で爽やかに言った。こういうところがこの男の良さ。ライバル球団の選手ではあるが応援したくなる。

阪神の話だ。注目したのは佐藤輝明。4回、2死一塁から三塁へ詰まった当たりを放った。ここでヘルメットを飛ばし、懸命に走る。間一髪セーフ。敵将・新井貴浩がリプレー検証を要求したが判定は変わらなかった。大物打ちの選手がこういう姿を見せるのはいい。個人成績は大事だが、まずは勝利のため。勝ってこそ記録も光るのだ。

しかし1点リードの7回に驚かせる。この回、先頭で右前打。さあ、坂本誠志郎の犠打で送って、木浪聖也から代打で追加点だ-。虎党でなくともそう予想する場面で、あっさりけん制で刺されてしまう。

「あれは油断としか言いようがないでしょ。代打を出す状況さえつくれなかったかもしれない。ああいうプレーで流れが変わってしまうからね」。厳しく指摘したのは内野守備走塁コーチの馬場敏史だった。

それでも。表情が曇る馬場には申し訳ないが、その話を聞きながら「やっぱ佐藤輝はおもろいな」と思ったりもする。ときに失策もやらかす。この日は走塁ミスも出た。だが、ひとたび芯でとらえれば度肝を抜くアーチを放つ。いろいろな意味で生まれついてのプロかな、とも思うのだ。

今季甲子園初戦は4万2601人の大入り。もはや驚かないが4月の屋外球場、ナイターということを考えれば、やはりすさまじい人気の阪神である。それに応えるのは勝利が一番だ。それでも、やはりスター選手・佐藤輝の活躍もほしい。そのためには大瀬良が言う「目の前のことに精いっぱい」という姿勢が大事なのかな。宙を舞う佐藤輝のヘルメットを見てそう考えたのである。(敬称略)【高原寿夫】(ニッカンスポーツ・コム/野球コラム「虎だ虎だ虎になれ!」)

阪神対広島 7回裏阪神無死一塁、佐藤輝はけん制死する(撮影・上田博志)
阪神対広島 7回裏阪神無死一塁、佐藤輝はけん制死する(撮影・上田博志)