11年ぶりに明治神宮大会に出場した神奈川大は、4強で大会を終えた。その強さの原動力は、主将・渡辺諒内野手(4年=大分商)の涙と、1つになった4年生の力だった。

慶大戦は4-4で迎えた9回裏、この回から登板した最速152キロ右腕・神野竜速(りゅうどう)投手(3年=西武台千葉)が、1死三塁からサヨナラ2ラン本塁打を浴び、マウンド上で泣き崩れた。試合後も、涙が止まらない。そんな神野の両脇にそっと寄り添ったのが、渡辺主将とエースの前田秀紀投手(4年=聖光学院)だった。言葉はなくとも「よく頑張ったよ、ありがとう」と、肩を抱く手から伝わる温かい思い。来年のエースへ、優勝の思いを託す。このシーンが、今秋の神奈川大の強さを物語っていた。

チームの心が1つになったのは、渡辺主将の涙だった。春季リーグ戦を3位で終えた6月。秋季リーグ戦で優勝するために、打撃の課題が明白だった。渡辺は「指導者と選手との間で考え方のギャップがあった」と振り返る。打てない時にどんな野球をするのか。機動力の野球を徹底させたい指導者と、うまく実践できない選手との間で思いがすれ違う。指導者と選手との間に挟まれ、渡辺の苦悩が続いた。「自分の中でもどちらを優先したらいいか分からない。どちらにも弱みを見せられない。いっぱいいっぱいになってしまいました」。

選手たちのやる気も日に日に消え、練習での全力疾走さえも緩んだ。「このままでは秋までにチームが崩壊してしまう」。渡辺は思いきって監督室をノックした。「監督、どうしたらいいか…分かりません…」。涙がポロポロとほおを伝った。岸川監督は優しく答えた。「自分で抱え込まずに、弱音を吐いてもいいんじゃないか? 今は、やれることをやるだけだぞ」。渡辺は、肩の力が軽くなった気がした。

「すぐに4年生に集まってもらい、本音を吐き出したんです」。チームメートからは「ごめんな、そこまで考えられていなくて」と温かい言葉をかけられた。「勇気を出して自分をさらけ出して、本当に良かった」。渡辺は、友達の大切さを心から感じた。

この日を境にチームが変わった。4年生で役割分担し、渡辺の負担を軽くした。指導者からの指示も、全員で共有し目指す野球を1つにした。「まずは自分たちの打ち勝つ野球をする中で、指導者の言う機動力野球を取り込んだ」。勝ちたい気持ちは全員一緒。そのアプローチの引き出しを増やした。

4年生の結束がチームを強くした。秋季リーグ戦では、ブルペン捕手2人、ボールボーイ2人、荷物運びにベンチの消毒。普段は下級生がやるべき仕事も、すべて4年生が担当しチームに帯同した。岸川監督は「これまでリーグ戦中も、今年の強さは4年生の力と言ってきましたが、それは梶原や前田の力じゃない。4年生全員の力なんです」と話した。4年生のサポートに後押しされ、試合に出る下級生も躍動し、全国4強にまで上り詰めた。慶大戦では強打あり、相手のミスから得点も奪った。敗戦したが、この試合は、神奈川大がこの秋に目指した野球そのものだった。

秋季リーグ戦が始まる前、岸川監督は4年生全員にこう話した。「お前らの引退は絶対に神宮だからな」。その言葉通り、神宮球場で大学野球を終えた4年生。渡辺は涙の後輩に言葉をかける強い主将に成長していた。「最後は4年生の力。いいチームになったなぁ、と思います。指導者冥利(みょうり)につきますね。こういうチームを来年以降も作れたらいいなぁ」。試合後、岸川監督の4年生を見つめる目は、温かかった。【保坂淑子】

中部学院大対神奈川大 12-5で8回コールド勝ちし喜ぶ神奈川大の選手たち(撮影・野上伸悟)
中部学院大対神奈川大 12-5で8回コールド勝ちし喜ぶ神奈川大の選手たち(撮影・野上伸悟)