24日の明治神宮大会、大学の部決勝。国学院大(東都大学)は明大(東京6大学)に0-1で惜敗し、あと1歩で悲願の初優勝を逃した。試合後、鳥山泰孝監督(47)が「古江が作って引っ張ってくれたチームなので、何とか日本一にさせてあげたかったですが…」と話すと、隣に座る古江空知主将(4年=大分商)の目から大粒の涙がこぼれた。

8回1死一塁、古江は代走に起用された。続く打者が三振で倒れ、2死一塁からの3球目。思い切ってスタートを切ったが、タッチの差でアウトだった。「盗塁をしてヒット1本で(本塁に)かえられるような状況になれればと。自信をもって走りました」。ベンチに戻ると、チームメートが大きな拍手で迎えてくれた。積極的なプレーを誰1人として責める者はいなかった。

古江は鳥山監督が就任以来、初となる(年間通しての)控えの主将だった。投手として入学したが、俊足を買われ昨夏、外野手に転向した。リーグ戦には代走での出場も、責任感の強さ、何事にも一生懸命に取り組む姿、そして何より明るさが評価され、主将に任命された。

この1年、チームのために、何ができるかを考え続けた。今秋開幕前、チームメートの微妙な表情に気がついた。

「練習は一生懸命やっているのに、調子が上がらずに下を向く選手がいた。じゃあ、運気を上げよう、と思い付いたんです」。

週に一度の練習が休みの朝、古江はラインで希望者だけを募り、午前6時から約40分間、寮の周辺のゴミ拾いを始めた。最初はたった5人だったが、リーグ戦終盤には、20人近くに増えた。柳館憲吾内野手(2年=日大三)、神里陸捕手(2年=東海大相模)、吉川育真内野手(3年=岡山理大付)、坂口翔颯投手(2年=報徳学園)、冨田進悟内野手(2年=横浜)。終わってみれば、優勝に貢献した選手ばかりだ。「何かやると決めたことに対し真摯(しんし)に向き合った人間は、結果としてうまくいくことがある。僕はそう信じています。頑張って朝起きて来てくれてよかったな、と思います」。選手たちの活躍を、後押しした。

春が終わった後、鳥山監督は「チームが求める人」と書いた紙をベンチに貼り出した。その1つ目に書かれていたのが「明るく元気な人」だ。「運を引き寄せる。幸運を呼び込めるチームにしたい」という思いを込めた。古江の明るさ、元気、行動力そのもの。運を引き寄せ、どんな時も前向きに戦う集団に育て、明治神宮大会準優勝に導いた。

最後には、1年間の思いがあふれた。「辛いことだったり、苦しいことも多かった1年ですが、リーグ優勝だったり報われる瞬間があったから続けられました」。そう話すと、再び涙が頬を伝った。「いい仲間、いい指導者に支えられてここまで来られた、胸を張って…。(後輩たちに)何かを託していきたいと思います…」。いつも笑顔の男の、最初で最後の涙。取材が終わり、チームメートの輪の中に戻ると、またいつもの「古江スマイル」に戻っていた。【保坂淑子】

国学院大 鳥山監督が、ベンチに貼り出した「チームが求める人」(撮影・保坂淑子)
国学院大 鳥山監督が、ベンチに貼り出した「チームが求める人」(撮影・保坂淑子)
国学院大対明大 ベンチから笑顔で声を出す国学院大の古江空知(中央)(撮影・浅見桂子)
国学院大対明大 ベンチから笑顔で声を出す国学院大の古江空知(中央)(撮影・浅見桂子)
古江主将がチームメートのグループラインに送った携帯画面(撮影・保坂淑子)
古江主将がチームメートのグループラインに送った携帯画面(撮影・保坂淑子)