今月20日に開幕する第144回九州地区高等学校野球大会(鹿児島)の出場をかけた県大会が、九州の各県で行われている。

秋からの成長を発揮する場であり、今週中には代表校が出そろう予定だ。この大会で選手を取材していると、練習や試合の合間に甲子園の中継や、ハイライトをチェックしている選手が多いことに驚く。テレビの前にいなくても、甲子園の戦いを「映像で」目にできる時代。アーカイブからタイムフリーで視聴もできる。多くの高校生が同世代の活躍に刺激を受け、教材にしていることがわかる。


「奥川君(星稜)の1回戦の投球が勉強になりました」と話すのは、九国大付のエース下村海翔(かいと・3年)投手だ。「履正社戦を見たのですが、真っすぐだけじゃなく変化球の使い方が優れていると思いました。8回2死一、二塁。代打の左打者(田上奏大選手)を外高め146キロのまっすぐで空振り三振に取ったシーン。余力を残しているから、終盤に力のある球が投げられる。ペース配分がさすがだと思いました」と話した。


下村投手はこの春、苦い経験をした。3月17日、練習試合で盛岡大付と対戦。センバツ出場する強打者たちに7回6失点と打ち込まれた。最速149キロの速球を持つ右腕は「力試し」を意識するあまりに力みが入り、制球も乱れて7四球。楠城徹監督から「力で抑えようと暴れてしまっている。全然だめ」と苦言を受けた。そのあと「星稜-履正社」の奥川恭伸投手(3年)の投球を見て、ヒントを得たそうだ。「速いだけじゃだめ、緩急もつけようと反省しました」。福岡大会5回戦の東筑戦では8割の力で投げることを心がけ、速球に130キロ台のカーブを織り交ぜて、4回無失点、7奪三振の好投を見せた。


■同世代のお手本になっている星稜・奥川投手の投球


熊本の148キロ右腕、有明・浅田将汰投手(3年)も「奥川君の初戦、見てました!」と目を輝かせていた。「夏までに150キロを出して、全日本入り!」と目標にしている浅田投手は「奥川君は最速(151キロ)を甲子園で出すところがすごい。まっすぐのキレ、コースの投げ分けは自分も参考にしたいと思いました」と、憧れを口にした。熊本大会3回戦・熊本北戦は1安打19奪三振で今季初完投。直球は146キロを計測した。9回131球の球数を反省しつつ「後半は遅いボールを使って緩急をつけられた」と満足げだった。少ない球数で三振の山を築く奥川投手のような投球術を理想としている。


センバツを見て刺激を受けているのは投手だけではない。西日本短大付の近藤大樹選手(3年)は「筑陽学園をめちゃめちゃ応援していましたよ!」と声を弾ませていた。と言うのも主力として活躍した江原佑哉主将や、進藤勇也選手(ともに3年)は中学時代に通った野球塾で親しくなり、センバツ前の3月13日には練習試合で顔を合わせていたからだ。この試合、近藤選手は1番を任されながら無安打に終わり、0-4で敗戦。「何もかも力の差を感じたし、全国で勝つためにはあのくらい強くならないといけない」と実感した。その後、気持ちを入れ直して練習に取り組み、福岡大会5回戦・福岡第一戦では8回2死からレフトオーバーの二塁打を放って勝利に貢献。夏に向けて、チームの底上げを真剣に考えるようになったという。


センバツを戦う選手は、高校生たちの「教材」だ。福岡大会中、東筑の青野浩彦監督はこんなことを言っていた。「甲子園の映像を見ることが、どれほど勉強になるか。投球の組み立てもそう。もっとウチの選手たちに見て欲しいんですよね」と。「自分があの場所に立ったらどうするか」。そのイメージが練習の集中力につながるからだ。


センバツと同時期に行われている、九州の春の県大会。甲子園には直接つながらない公式戦ではあるが、センバツから学び、直ちに自分のパフォーマンスにつなげようとしている選手たちの向上心や、リアルタイムな試行錯誤を見て感じることができる。【樫本ゆき】