全国高校野球選手権大会(8月6日開幕、甲子園)埼玉大会は11日、1回戦27試合が行われた。東北、九州国際大付で春夏合わせて甲子園出場11回を誇る若生正広監督(64)率いる埼玉栄は、古豪上尾に勝利した。「若生イズム」を注入された先発の出井(いでい)敏博投手(3年)が、5安打完封。打っては8回に決勝点につながる三塁打を放つなど投打に活躍した。神奈川、栃木、群馬、山梨、大阪なども開幕した。

 難敵を退けた瞬間、名将は大きく息を吐き出した。89年以来、26年ぶりに挙げた埼玉での勝利に心底、安堵(あんど)の表情を見せた。「素直にうれしいね。3年生がベンチで盛り上げてくれてうれしかったよ」と柔和な笑みを浮かべた。

 今年4月から埼玉栄に復帰した。春の大会で春日部共栄に敗れた後、東北や九州国際大付に比べ「パワーやスピードが不足している」と痛感した。以来、バットはにぎり拳1つ分、短く持つことを徹底。投手陣には風呂上がりのストレッチ、股関節の柔軟運動を勧めた。投打に活躍した出井は「4月以降、投球で踏み出す足が1足分大きくなった。その分、リリースポイントも前になって力が伝わっていると思う」と実感していた。

 さらには「変化球養成ボール」も与えた。2個の鉄球を手のひらで転がす。リズムがいいと、鉄球の中に入った鈴がテンポよく音色を出す。指揮官は「球の名前は知らないんだけど、1260円だ。ダルビッシュは1週間できれいに出来てたよ」と言って笑った。出井にも「ダルと同じことをやらせているんだ。そうなれるように頑張れ」と叱咤(しった)した。要所でスライダーが決まったのも無関係ではない。

 150メートルダッシュを10本、インターバルにはV字腹筋を30回。投手陣には10セットが日課だ。ちょうど100球で完封の出井は「延長も考えていたのでまだまだ行けました」とさらり。一方で野手2人が足をつって交代。指揮官は「つってるようじゃダメだよ。野手はトレーニング不足」と笑い飛ばした。98年以来の優勝へ、若生イズムで好発進した。【高橋悟史】

 ◆若生監督就任の経緯 87年に埼玉栄監督就任。89年から東北コーチ。93年、同校監督となり06年から九州国際大付監督。昨夏限りで退任し今年4月から復帰。07年黄色靱帯(じんたい)骨化症を発症した。