<君の夏は。>

 5回コールドの試合を空から見届けた弟は、なんて言っただろうか。「祐海、良かったじゃん。次も勝てるよ」。スタンドで勝利を見届けた立正大立正(東東京)中村祐海(ゆうみ)マネジャーは「弟と2つ違いだったからなのか、呼び捨てにされていたんです」と笑った。

 中村マネジャーが中学1年の時、弟の斗星(とうせい)君が急性骨髄性白血病を患った。弟は少年野球チームで捕手を務めていた。テニスに夢中で、川崎市の大会で入賞を果たすほどの腕前だった姉と、巨人坂本が好きだった弟はいつもテレビのリモコンを取り合った。「野球に興味がなくて。なんで野球なんか見るのかなって、いつも思っていました」。弟が入院し、そんな言い争いもなくなった。

 約2年間の闘病の末、斗星君は亡くなった。中村マネジャーが立正大立正に入学する2カ月前だった。現実を受け入れられないでいると、母円香さん(42)に言われた。「新しいことを始めてみたら。野球部のマネジャーは?」。家族の思いと弟の遺志を継ごうと決めた。しかし、ポジションが分からない。スコアブックを手にし、くじけそうになって泣いたこともあったが、「私が野球を続ける。絶対にやめられないと思いました」。3年間全うした。

 試合の朝も、いつもと同じように仏壇に手を合わせる。「今日も勝ってくるね」。足立学園との4回戦を突破すれば同校初の16強入りだ。中村マネジャーの夢は看護師。その前に、弟の思いを背負いまだまだメガホンを振る。【和田美保】