<君の夏は。>

 いつもと違った。浦和学院の左腕、佐野涼弥投手(2年)は感じていた。「全然、振ってくれない…」。5回1死満塁。2番手の桑野が押し出し四球で先制点を献上した後、2ボールからマウンドに上がった。自慢の縦に落ちるスライダーを投げた。しかし、花咲徳栄・高井悠太郎内野手(3年)に悠然と見送られた。1度も振ってもらえず押し出し死球で2点目。次打者には押し出し四球で3点目を献上した。

 普段なら、スライダーを投げればバットがクルクルと回る。「得意のスライダーを振ってもらえず、真っすぐ中心になった。ストライクを入れようとして腕が縮こまった」。直球を投げればワンバウンドになった。上体が突っ込んでいるのは分かっていたが「修正が利かなかった。相手が上でした」。鼻っ柱を折られた。プロのスカウトが来秋のドラフト候補として期待する左腕は、涙した。

 それでも、やられっぱなしでは終わらなかった。6回に内角高めの直球を右翼席場外へ運んだ。「打席で、『絶対甲子園に行くぞ!』という先輩たちの声を思い出しました」。初球に大ファウルを打った後の2球目。仕切り直しの一打は隣接するサッカー場まで飛んだ。

 佐野 初めての感触でした。投球では修正できませんでしたが、打席ではうまく修正できた。ピッチングでは、まだ使っていない落ちる球を練習中です。次こそ、絶対に甲子園に行く。

 先輩たちの後押しを受けた高校通算1号が、来夏への号砲だ。【和田美保】