汚名返上の一撃で千春さんの激励に応える。第99回全国高校野球選手権(甲子園)に出場する南北海道代表・北海が明日12日、第3試合で神戸国際大付と激突する。井上雄喜左翼手(3年)は昨夏決勝で、自身の走塁死で敗戦が決まった。屈辱の1年に耐え再び立つ聖地。父・元さん(50)がマネジャーを務めるシンガー・ソングライター松山千春(61)のエールも胸に、リベンジを誓った。

 井上が果てしない大きな力で勝利を引き寄せる。10日、大阪・豊中ローズ球場で行った実戦形式の打撃練習。最初の打席で左中間に強烈な打球を放ち、好調ぶりをアピールした。昨夏は初戦の松山聖陵戦の1安打のみ。3回戦以降は先発から外れた。雪辱の舞台へ「だんだんとタイミングが合ってきた。去年は悔しい思いをしたし、最後の夏こそ、しっかりバットで貢献したい」と意気込んだ。

 音楽界の大御所からエールをもらった。昨年末、私用で東京に出かけた際、マネジャーを務める父・元さんに呼ばれ、松山千春と対面。緊張しながらあいさつする井上に、松山は言った。「頑張れよ!」。松山は昨夏、井上が初めて甲子園に出場して以降、自身のライブでも、その活躍を口にするなど気に掛けてきた。「千春さんは、高くいい声だった。何とか期待に応えたい」。ひと言だが、重みあるゲキを力に変える。

 昨夏決勝は9回に代打で出塁も2死一、二塁から相手投手の投球がそれた間に二塁から三塁を狙い走塁死。夏が終わった。1年間、頭から離れない悪夢。苦しむ息子を元気づけようと、松山のマネジャー業で多忙な父が、関西入り前日の7月31日、札幌の家に帰った。「去年は先輩の後を追いかけていった甲子園。悔いもあっただろうけど、今年はお前たちで勝ち取ったもの。思い切って楽しんで来い」。父のサプライズ帰宅に「普段は忙しくて家にいるなんて珍しい。勇気が出た」と奮い立った。

 野太い眉と彫りの深い風貌、さらに背筋力180キロと屈強な体から、陸上のケンブリッジ飛鳥似のアスリートとしてネット上で紹介されることもある。街中でも声をかけられるようになり「千春さんや父だけじゃなく、声を掛けてくれるすべての人に恩返しがしたい」と前を向いた。本家はロンドン世界陸上100メートル準決勝で敗退も、真夏の熱狂はリベンジに燃える“北海のケンブリッジ”が引き継ぐ。【永野高輔】