初出場の奈良大付が日大三(西東京)に敗れはしたが、田中一訓監督の45歳の誕生日に躍動した。

 3-8の9回裏に木平大輔(3年)吉田直央(3年)が代打で連打を放ち、1点を返した。最後まで諦めなかった。起爆剤は6回裏、4番上野拓真(3年)の3ランだ。チーム一の長打力を買われ、今春、控えから主砲に大抜てき。ネクストバッターズサークルで、5番白沢皇太内野手(3年)を通じ、田中監督に「これで打て。光って見えたから」と渡されたバットで、135キロの内角低め直球を左中間スタンド最深部に放り込んだ。

 上野は「みんなから“自信を持っていけ”と背中を押された。だから自分のスイングができた」。高校通算23本目で初の公式戦本塁打を放った。試合後は敗戦の悔しさから号泣した。

 田中監督は「真面目な性格で、迷っているようだったので。バットケースを見て“光って見えた”のを渡したんです」。初戦の羽黒戦も、上野の最終打席で「これがいい」と思いついたバットを持たせて、犠飛を呼んだ。「ただのひらめきなんですが…。でも、信じる心って大事だと思うんです。それを期待して」と指揮官は恥ずかしそうに“ひらめき戦術”を説明した。

 田中監督の誕生日は例年、オフ。「僕の誕生日だからではなく、お墓参りのためです。(ご先祖様に)感謝することの大事さを知ってほしい。彼らが野球ができるのも、そのおかげですから」。夏の奈良大会決勝を6度目の正直で勝った今夏は特別だった。

 ロッテの応援ソングなどを作ったジントシオ氏作曲で、ネット上で「かっこよすぎる」と話題になったチャンステーマ「青のプライド」を総勢121人の吹奏楽隊が打ち鳴らす中、三塁側アルプス席は熱狂的な応援を繰り広げた。田中監督は「最高の舞台で、うれしかったですね。選手がハツラツとした動きを見せてくれた。感動しました」。敗れはしたが、豪華な誕生日を胸に刻んだ。