嬬恋名物「玉菜音頭」も、あと1回、足りなかった。

得点が入るたび、地元の名産キャベツを手に応援団が沸いた。4回までに4点を失ったが、5回に反撃開始。2点を返す。6回2死からは4番の水出岳斗捕手(2年)が左越えへ1発。ついに1点差。だが、そこまで。「3年生と一緒にできるのは、この試合だけかも知れないと。持てる全力を出そうと思ってやりました」と真っ赤な目をしながら話した。

先輩のおかげで、嬬恋にきた。4回途中から登板した佐藤真一投手(3年)とは、東吾妻中でもチームメートだった。当時、佐藤真は同じ捕手で「見習ってました」。休みの日には自転車を30分こいで家に行き、キャッチボールの相手をしてもらった。

最初は、県内の野球名門校に行きたかった。ところが、前期試験で落ちてしまった。そんな時、佐藤真が「嬬恋で一緒にやろう」と声をかけてくれた。後期試験で合格。周りは近隣の中学生ばかりだった。佐藤真と再びチームメートとなり「一回り大きくなった真一先輩を見て、自分も成長しないといけないと。先輩となら、強くなれると思いました」。優しさだけじゃない。やる気ももらった。

昨秋から投手に転向した佐藤真と、バッテリーを組むことになった。この日は2番手で登板。直球中心のリードで、5回2/3、2安打無失点に導いた。盗塁も3度刺し、サポートした。

男子部員は15人しかいない。3年生が抜けると、残るのは6人だけだ。水出は「心配です。野球は9人でやるスポーツ」と正直に言ったが、すぐ「基礎体力の向上はできる。ウエートや走り込みを重視してやっていきたい。次のキャプテンとして引っ張っていきます」と決意表明した。

佐藤真は「まず自分のことをしっかりやってくれれば。チームとして、どういう目標を持つか。課題も見えてくる」とエールを送った。かつては同じ捕手。すぐに顔に出る水出に注意したこともあったという。最速144キロ右腕で、大学からも興味を持たれているが、野球は高校で卒業する。果たせなかった夢の続きを、後輩が追う。