日刊スポーツは木曜日のスペシャル企画「高校野球NOW」で球児たちのホットな話題をお届けします。第1回は今夏の甲子園で初の聖地優勝を果たした履正社(大阪)。阪神ドラフト2位の4番井上広大外野手(18)らが抜けても秋の大阪準V、近畿大会4強でセンバツを濃厚にするなど強力な陣容です。4番捕手の関本勇輔主将(2年)が、甲子園夏春連覇を目指して引っ張る新チームを紹介します。【取材・構成=望月千草】

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冬のいてつく空気の中で、履正社ナインは懸命に白球を追っている。夏の甲子園を経験したメンバーも残った新チーム。その先頭に立つのが主将で4番の関本だ。岡田龍生監督(58)に「自分のプレーも役職もちゃんとできる」と責任感の強さを買われ、主将に就任。中3時に二塁送球1秒89を記録した強肩の持ち主が、攻守にチームの要だ。

「父超え」を思い描く。父は阪神で活躍した関本賢太郎氏(41)。野球を始めた幼い頃から「お父さんはこれくらい打っていた」「このくらい飛ばしていた」と周囲から逸話を聞いてきた。「驚きや不安。超えられるのかなと思った」。プレッシャーにもなっていたこともある。「嫌ではなかったけど、違和感もあって。でも、今は燃えるというか、良い発奮材料。言われるほど『超えたい』という気持ちは強くなります」。

「関本の息子」に集まる視線をエネルギーに変えている。2年春頃から頭角を現して春夏の甲子園でベンチ入りし、全国制覇を体験した。新チームでは4番を務め、秋の大阪大会決勝の大阪桐蔭戦では、9回に同点3ランを放つ勝負強さを見せた。現在高校通算15本。「正確には分からないんですけど(天理での父の通算は)20~30本くらいと。ホームランの数とか超えたいですね」。

活躍が父への恩返しになる。「小学校の時から野球を続けさせてくれた。甲子園で活躍することは、父を超えるというよりも恩返しです」。主将就任後、「全員野球の大切さ」も説かれたという。

主将としてチームの方向性も整える。秋の大阪大会は決勝以外の全7試合コールド勝ちで準優勝。近畿大会も2試合連続2桁安打で準決勝に進んだが、天理戦は野手の失策からサヨナラ負けした。「自分たちの野球人生を左右する試合。負けたことが変われるチャンスだった」。プレー以外のわずかな瞬間、行動も手を抜かないように呼びかけ、チームの成長を促す。「目標は日本一。同じ方向を向いてやっていけたら」。履正社初の夏春連覇へ。父の仕事場だった甲子園で、大暴れできる準備を整える。

◆関本勇輔(せきもと・ゆうすけ)2002年(平14)9月28日生まれ、兵庫・西宮市出身。夙川小1年時に夙川少年野球で野球を始め、投手と遊撃手。苦楽園中では兵庫西宮ボーイズに所属し捕手。履正社では2年春のセンバツからベンチ入り。遠投125メートル、50メートル6秒4。175センチ、80キロ。右投げ右打ち。

 

○…4冠達成へ、残るはあと1つ。岡田監督は「春(センバツ)取ったら、全部取ったことになる。夏、神宮、国体。取りたいですね」。

初のセンバツ優勝がかなえば、高校野球4大大会制覇が実現する。「ここから3カ月、ホンマに一生懸命やったら去年(のチーム)よりもっと(力が)上がるかもね。足も使えるし。この冬どれだけ味付けしていけるか」。関本ら中軸はもちろん、下位打線にもパワーヒッターの大西蓮外野手、大阪桐蔭戦で5打数5安打と勝負強さを発揮した両井大貴外野手(ともに2年)ら好打者がそろう。近畿大会後、選手と面談で課題を確認し、目標を設定。1人1人のレベルアップを心待ちにする。

今夏、就任32年目で甲子園初優勝。ガッツポーズで喜んだ。副主将の池田凜内野手(2年)も「あんなに喜んでいるところは見たことがありません。また甲子園で勝って喜んでもらいたい」。ナインも夏春連続胴上げへ気合十分だ。

○…冬の強化テーマの1つが投手力アップだ。今夏甲子園で優勝投手にもなった最速145キロのエース・岩崎峻典投手(2年)に続く投手の安定が必須。

岡田監督は「岩崎と次の投手がどうなるか。みんな必死でやっている」と2番手の台頭を期待する。制球が武器の辰己颯、球威のある衣笠遼、右の本格派内星龍(いずれも2年)らポテンシャルの高い投手陣が身内バトルを展開中だ。近畿大会は4強入りしたが、岩崎は「勝ち切れなかったのは詰めの甘さがあるから。それをなくす冬練習にしようと話している」と引き締める。

来春のセンバツから「1週間500球以内」の球数制限も実施され、複数投手の育成がより重要視されそうだ。

○…小深田大地内野手(2年)は、高校通算29本塁打の主砲。今夏は正三塁手で甲子園優勝を経験した。

冬の課題に挙げるのが確実性と長打力アップだ。今秋の近畿大会は13打数8安打5打点1本塁打と好成績も、大阪大会決勝・大阪桐蔭戦での悔しさがぬぐえない。4点を追う5回、2死満塁の絶好機で見逃し三振。「自分が打てなくて負けたと言ってもおかしくないくらい」と振り返る。

現在は下半身の使い方に意識を置き、「ボールまで最短でバットを出している」。オリックス吉田正らの大砲型を参考に理想のフォームを固めている。「去年は先輩がいる安心感の中でやらせてもらった。(今度は)チームを救える打者になりたい」。主軸の自覚がにじんだ。

 

<履正社新チームの岡田監督寸評>

◆投手 岩崎峻典(2年) 最速145キロエース。「今夏の救世主。冬の球速アップが課題」

◆投手 辰己颯(2年)制球力が武器。「コントロールが良くなってきた。冬の課題は球速アップ」

◆投手 衣笠遼(2年)最速145キロ右腕。「球威がある。あとは制球力」

◆捕手 関本勇輔(2年)主将で4番。チームの軸。「対応力を上げること。4番は変わらない」

◆一塁 島野圭太(2年)「判断力がある。打つ、走る、細かいことがもっと出来るように」

◆二塁 池田凜(2年)

「粘りがあるし、思い切りがいい。あと打撃の確率を上げること」

◆三塁 小深田大地(2年)高校通算29本の主砲。「馬力がある。打撃はまだまだ。守備走塁も課題」

◆遊撃 中原雄也(2年)夏の甲子園でもベンチ入りを経験。「もっと打力強化が必要」

◆左翼 両井大貴(2年)U15日本代表。「全体的に良くなってきた。伸びている選手の1人」

◆中堅 田上奏大(2年)叔父は元ソフトバンク田上秀則氏。「力を出し切れていないが能力は高い」

◆右翼 大西蓮(2年)188センチ、88キロのスラッガー。「パワーがある打者。メンタルのムラをなくす」